第5話

 私はおじ様の連れに抑えられた。

 だけど、

「本当ですよ。ちなみに、毒を彼女の母親に売ったのはご主人様です」

 と、連れの人が口を開いて、私を抑えた手を緩めた。


 この男が、お父様を殺した毒を売った!?

 私はおじ様・・・いいえ、この中年の男を睨む。

「なっ、お前、見ていた・・・・・・いや」

 中年の男は失言を取り繕うとしたが遅い。

 それにしても、まさか私を抑えていた人がそれを見ていたなんて。

「おっ、王子。王子と言えども、国民の家庭の事情に、まさか干渉しませんよね? ちょっと、婚約者と従者の不満が溜まっていたみたいです。いや、お恥ずかしい。この国の商人として恥じないよう精進してまいりますので・・・」

 そう言って、中年の男は王子に馬車へお戻りいただこうとするが、王子は先ほどの証書を見て、

「第八婦人か・・・」

「えへへっ」

 訝し気に中年の男を見て、中年の男は腰を低くして愛想笑いをする。

 私って第八婦人ってことで婚約者だったってこと? こんな男が他に七人も婚約者がいるの?

 ハッキリ言って信じられなかった。

 王子は中年の男を避けて、こちらへやって来た。彼が近づくと心が落ち着く香水の香りがして、彼は身長がとても高かった。でも、大きいからと言って高圧的ではなく、とても穏やかな表情をしていて・・・・・・なのに、心は落ち着くはずなのに、鼓動が速くて高揚感があるのは、勇気を持ってお義母様たちを告発したからだろうか。

「さっき言った言葉は本当かい?」

 彼の目は私を信じようとしてくれている目だ。

「はいっ」

「キミも本当かい?」

「はいっ」

 中年の男の連れも元気よく返事をする。王子は少し考えて、私の目を見た。

「よし、予定変更だ」

 王子は護衛に中年の男に付いて来てもらうように指示した。けれど、中年の男は大金を払うから見逃してくれと言って駄々をこねたため、拘束され中年の男の馬車で連行されていった。

「キミはこっちだ」

 そう言って、私は王子の馬車に案内されて、王子の隣に座ることになった。何を話していいのかわからなかったけれど、王子は聞き上手で私の話をしっかりと聞いてくれた。だから、私は少しでも楽しい話をしようと思って、両親がいた頃の楽しかった日々の話をした。話せば話すほど、当時の記憶がよみがえり、嬉しさと悲しみが募った。

「嫌な話も・・・してもいいですか?」

「もちろん」

 自分の不幸話なんて誰も聞きたくないと思っていたけれど、王子は親身になって聞いてくれた。話している最中に、悲しい気持ちを思い出した。それにひどい仕打ちを受けたとはいえ、誰かの悪口を言うことになって、自己嫌悪になり、泣き出してしまうと、王子はハンカチを渡してくれた。それが嬉しくて、涙を拭いても拭いてもさらに涙があふれてきた。

「大丈夫だ。僕がついている」

 王子はそう言って私の背中を擦ってくださり、私を抱きしめてくれた。中年の男に触れられた時、不快感が襲ってきて、お義姉様たちの暴力もそうだけれれど、もしかしたら私は誰にも触れられたくないと思ったけれど、王子のぬくもりは、お母様やお父様のように優しく私を尊重する慈愛に満ちていて、私は六年・・・いいえ、八年ぶりに幸せな気持ちになりました。

「そうだ。少しわからない部分があったからここに文字で教えてくれるかい?」

 王子はペンと紙を私に渡してきました。私が感情的になり過ぎてしまったかと反省しようとすると、王子は「ちゃんと、伝わっているけど、ねっ」と言ったので、少しは気持ちが軽くなった私は王子の言う通り文字で登場人物の名前などを書いて王子に話しました。王子は私の字を褒めてくださりながらも、感心しながら私の話を真摯に聞いてくださいました。

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