第3話

 私は耐え忍んで十六歳になりました。

 誕生日になったと言っても、喜んでいたのは八歳まで。

 お母様がいて、お父様がいて、美味しい料理に、お母様のお手製の甘いケーキを食べて、サプライズのプレゼント。九歳になって、お父様が病み、十歳になったら、血のつながる人、私と仲が良かった人が私の周りから誰もいなくなった。もう誕生日の思い出も薄くなってしまった。


 その日、窓から外を見ていると、馬車が来ました。

 降りてきたのは、とても身なりをしたふくよかなガマカエルに似たおじ様でした。

 来客が来たので、部屋から出れないかと思ったら、お義母様に命令された使用人が私を呼びに来ました。


「おおっ、素晴らしいっ」


 そう言って、そのおじ様は私の頭に手を伸ばしてきました。私は度重なるお義姉様たちの暴力が原因で、身体が硬直してしまいました。おじ様はそんな無抵抗の私の頭を撫でて、髪を弄りながら、ニターっと笑いました。それに対して私の身体は条件反射で鳥肌が立ちました。


(助けて・・・・・・)


 そのおじ様はお義母様たちのように暴力は振るってきませんでした。けれど、身構えた私の防御をすり抜けて、私の誰も踏み入れてほしくないところに入って来た。そのような怖さは初めて心が震えて、今まで必死に一人で耐えてきたのに必死に誰かに助けを求めたくなった。


 けれど、私を助ける人は誰もいない。

 お義母様はそのおじ様から大金をもらい満面の笑みをし、結婚相手が見つかっていないお義姉様や義妹は優越感に浸った笑顔をしていて、使用人たちは心を顔に出していなかった。


「じゃあ、行こうか」


 当たり前のように肩に手を置くおじ様。

 

(逃げるなら・・・・・・今っ)


 私は走りだした。

 でも、駄目だった。

 外にも出ず、家の中で過ごした私なんか、おじ様のお連れの方に簡単に捕まってしまった。


「おやおや。生きがいいねぇ。でも、駄目だよ。そうすると、人魚のように歩けなくなってしまうから」


 私のアキレス腱を見るおじ様。

 このおじ様は脅し・・・いや、本気だろう。この人の怖さはやはりお義母様たちのように脅しを使うのではなく、こういった怖いことを本気で言うところなのだろう。それが、直感で私はわかったから怖がっていたに違いない。

 動かないし、何も言葉が出ない。これじゃあ、まな板の鯛になってしまい、調理されるだけだとわかっているのに。


「ちょっとはしゃいだだけって言って」


 私を捕まえたおじ様の連れの一人が私の耳もと囁き、もう一人が頷く。


「すいません・・・・・・久しぶりに外に出たもので」


 私がそう言うと、おじ様はニコッとする。


「うん、よろしい。キミは賢いようだ」


 私は大人しく彼に従い、馬車に乗る。これがカボチャの馬車ならどんなによかったのだろうか。

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