第32話 えっちっち包囲網

 その言葉は、その遺言は、その道標は、あまりにも単純明快で大雑把で、そして現実味がないものであったが、確かにレパルトの心に強く刻み込まれた。


―――世界を目指せ


 これまで狭い地下世界の中で燻って生きてきた。これまでも、そしてこれからもずっとそうだと思っていた。

 しかし、今回の件で、狭い世界から四方にどこまでも広がる世界に飛び出して、出会い、戦い、交わり、殴り合い、その果てでレパルトに刻み込まれたその言葉は、思わず拳を握り締めて、胸が熱くなった。


「イベリ……」


 ようやく涙も徐々に収まり、レパルトは宛がわれた部屋のベッドの上で膝を抱えながら座り、何度もイベリの最後の言葉を思い返していた。

 それが、どこを目指して、何を目指して、どうやればたどり着くかも分からない漠然な言葉ではある。しかし、この地上世界に出て、当初はただ、ブリシェールのために戦いたい、自分の命を救うために処女まで散らしたブリシェールに報いたいという気持ちだけだった。

 それがここに来て、ブリシェールのためではなく、自分が進む道を示された。

 そのことからも、レパルトは、イベリの処刑からずっと、部屋に閉じこもっていた。


「う~~~~む……元気ないな、童は……」

「ええ……まさか……あの、オークの死が、これほどパルくんに影響を与えるとは思いませんでした」

「しかし、あれは仕方の無いことでした。奴の犯したことは、どのような事情があろうと、決して許されぬものでした」


 扉の隙間から中を覗き込んで、レパルトの様子を伺う三人の姫。ブリシェール、セレスティン、エルサリア。

 国の復興や戦後の処理のために、これから多くの雑務をこなさねばならないのだが、三人ともレパルトの様子が気になって、気づけば部屋の外から様子を伺っていた。


「しかし、ここで潰れてもらっては困る。童はこれからも奮闘してもらわねばならぬ」

「……そうですね……それに、気になるのは……あのオークが遺した最後の言葉……」

「世界を目指せ……あの言葉をレパルトはどう捉えたのでしょうね……」


 レパルトの能力は希少であり、使い方次第であらゆる不可能を可能にする。

 ゆえに、ブリシェールはレパルトを眷属云々や初めて肌を重ねた男がどうとかを抜きにしても、レパルトを手放す気は毛頭ない。

 むしろ、レパルトを他国や他種族に奪われて利用されることの方が、大きな損失になる。

 ゆえに、レパルトには、あまり「世界」、「種族」、「正義」などという言葉には惑わされずに、ただ自分の傍にこれからも居てもらおうと思っていた。

 そのためには、レパルトを自分から離れられないように、完全に篭絡しなければというのが、ブリシェールの想いであった。


「童は絶対にヨソにはやらん。そのためには、出て行きたくなくなるような満たされたものを童にやらねばならぬ」

「お姉さま、そうなると……」

「決まっておる。童の大好きな、えっちっち包囲網で、童を骨抜きにしようぞ」


 そのためには、男の欲望を叶えるような報酬をレパルトに与え続けようと、ブリシェールは考えた。


「わらわやエルサリアが毎晩えっちっちしてもよいが、流石に忙しくなるとあまり相手もできぬし、毎日同じ高級食材ばかり口にしても飽きるであろう」

「……まさか……お姉さま……」

「今すぐ覇王国の侍女たちの安否を確認し、今動けそうな者たちのリストを取り寄せよ。帰還した女軍人の腕利きも併せてだ。恋人や夫などがおらん方が望ましい。童の身の回り、えっちっちの世話、そして監視を含めて、人をつぎ込もうぞ」


 絶対にレパルトは手放さない。その想いから、ブリシェールはレパルトの知らない水面下で動き、えっちっち包囲網なる作戦を命じた。

 セレスティンはその作戦に苦笑し、エルサリアは不満の顔を見せる。



「しかし、姫様……それでは、レパルトが……お、女と性欲に溺れてしまうのでは……み、身の回りの世話はまだしも、その……し、下の世話であれば、べ、別に私自らでも時間を作り……」


「たわけ。わらわたちがえっちっちして絶頂するためには、童を失神させるまで絞り取らねばならぬ。それでは童が嫌がって逃げるやもしれぬ。童だけを満足させるには、一~三程度のまぐわいが相場である。となるとだ、ウヌは絶頂寸前のアヘアへ状態で我慢してその後の政務や就寝をせねばならぬのだぞ?」


「ふぐっ!? そ、それは……」


「わらわたちが気持ちよくなるえっちっちの時間は別にして、童が気持ちよくなるためのえっちっちも用意してやらねばならぬ。つまり、童とえっちっちして、絶頂寸前でお預けをくらって我慢をするオナゴがのう」


 

 ブリシェールの考案したものは、あくまで、レパルトを手放さないための体制を整えるためである。

 サラッと、自分たちがするときは、ソレはソレというように区別しようとしているが……



「分かりました。では、お姉さま……侍女としての仕事をこなし、腕も立ち、独り身で、精神力も強く、更には容姿の優れた方を用意致しましょう」


「うむ、早急に頼む」



 頷くブリシェール。そして同時に、ある考えが浮かんでいた。それは、エルサリアとレパルトの交わりを見て思っていたこと。


(精神力の強い侍女……欲望に流されることなく、主を第一に考えて尽くすもの……童の能力を知っても、自分が気持ちよくなるためではなく、童が気持ちよくなるために行動できるものが望ましい……しかし……もし、その侍女まで童の能力に狂ってしまえば……)


 ブリシェールはレパルトにハマった。エルサリアも意識が壊れるまで求めた。

 レパルトはもう限界だと嘆いても、身分が上である自分たちは、強引にレパルトを犯した。

 だが、もしそれが、主従が逆であったらどうだ? レパルトに尽くす女が、レパルトと交わることで、レパルトのためではなく自らの欲望のために乱れ狂ったらどうなる?


(もし、そうなった場合……本気で、童の身体で他国の女たちを篭絡させる計画を建ててもよいかもしれぬな……えっちっち世界征服!)


 ブリシェールとレパルト。

 主従の関係で、互いに世界を意識するものの、目指す世界がかなり違う二人であった。


「さて、お姉さま。それはそれとして……」

「ん?」


 ブリシェールが密かな計画を練っているところで、セレスティンが微笑み、手を叩く。



「パルくんの侍女はすぐに用意するとして、今現在のパルくんを慰めなければなりませんので……私が行きます。パルくんには、おっぱいの約束もしていますしね」


「……はっ?」


「セレスティン姫ッ!?」



 突然の提案に目を丸くする、ブリシェールとエルサリア。

 セレスティンは構わずに扉に手をかけて中に入る。


「お二人がパルくんを慰めようとしても、すぐにいやらしいことをして、結局自分たちが気持ちよくなることしか考えませんからね」


 自分は違う。二人のように欲望に流されたりはしないと、セレスティンが膝を抱えて蹲っていたレパルトに近寄った。


「ふぇっ!? あ、の……せ、セレスティン姫? それに、ブリシェール姫も、エルサリア姫も……あ、あの、俺に何か用ですか?」


 いきなり部屋に現れたセレスティンに、驚いてかしこまるレパルト。

 そんなレパルトの頭と頬を、セレスティンは優しく、そっと撫で、レパルトの頭を包み込むように自分に抱き寄せた。


「ひうっ!? せ、セレスティン姫!?」


 急に抱かれて慌てふためくレパルトであったが、セレスティンはゆっくりとした口調で……


「色々と大変だったね……パルくん……でも、本当に頑張ったよ?」

「ッ!!??」

「うん。パルくんは本当にお利口さん。パルくんが居なければ、私もエルサリアもお姉さまも、そしてこの国だってどうなっていたか分からないもの」


 色々あったかもしれないが、お前は本当によくやったと労うセレスティン。

 今まで、「頑張った」と言われることは、レパルトにとっては敗北に対する慰めであった。

 しかし、今は違った。

 その労いの言葉が心に染みて、涙が出そうになるほど嬉しかった。

 

「う……うぅ……セレスティン姫ぇ……」

「うん。いいこいいこ。泣いてもいいんだよ? パルくん」

「ひっぐ、ううう、はいい……」

「私の胸で、いっぱい泣いていいよ?」

「はい……ひっぐ……うぅ……」

「さあ、約束のおっぱい、いいよ?」

「はい………………えっ!?」


 その時、レパルトは思わず聞き返してしまい、少し顔をセレスティンから離す。

 すると、セレスティンはいつの間にか……


「さ、おっきな赤ちゃんパルくん? マーマのおっぱいで、い~っぱい、元気を出してね?」


 ブリシェールやエルサリアの美乳とはまた違う、はち切れるような、巨大果実がプルンと弾力で揺れながら、レパルトの眼前に現れた。



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