「赤間徹」
晴れた日のグラウンド。隼人とクラスメイト達が二人一組を作り、戦闘訓練を行っていた。
隼人もその一人だった。独りで訓練がしたかったが教員の監視の目が厳しくとても抜け出せる状況ではない。
「行くぞ!」
対峙する男子生徒の一人が隼人と同じ日本刀型ので切りかかってきた。
しかし、その動きはあまりに遅く、あくびが出そうだった。
隼人は降りかかってくる攻撃をことごとくかわして、相手の戦意を削ぐことにした。
「ちょこまかするな!」
「当てられないのが問題なんだろうが」
隼人はため息交じりに言うと男子生徒が顔を真っ赤にした。
「クッソー!」
男子生徒が斬りかかろうとしてきた時、チャイムが鳴った。訓練終了の合図が出た。男子生徒が不服そうな表情を浮かべながら、を収めた。
「それでは今日の訓練はここまでです。解散!」
教員がそう告げると一斉に校舎へと戻り始めた。
「今日のトレーニング。どうしようかな」
隼人は夕方のトレーニングについて考えていると女生徒たちが黄色い声が上げ始めたのだ。ふと視線をそちらに向けると明るい赤髪の青年が運動場に入ってきた。
隼人と青年の目が合った時、こちらにゆっくりと向かってくる。隼人はその目にどこか嫌味を覚えた。
「君が松阪隼人君かい?」
「ああ」
隼人は何気なくそう応えると青年が待っていたと言わんばかりに目を輝かせていた。
「
「赤間って入学試験三位の」
「家も優秀な戦闘員を輩出しているらしいぜ」
生徒達の間でざわめきが生まれていたが、隼人にとってどうでも良いことだ。
「そうかい。そんで何の用か?」
「単刀直入に言おう。僕と戦ってくれ」
赤間が鋭い目付きで隼人にそう告げた。闘技場での試合で他の人間にも隼人の実力が知れ渡った。
「断る。俺があんたと戦う理由がない」
「僕にはあるんだよ」
「なんだ? その理由は?」
「理由はシンプルだ。君が僕と同じ炎を使う者だからさ」
隼人は僅かに目を見開いた。自分と同じ炎を使う人間。
「我が家は代々、優秀な炎使いの家系。黒い炎なんて得体の知れない者は不安要素の一つになってしまうからね」
赤間が鋭い目を作り、睨みつけてきた。目の前にいる男は完全に自分のことを敵と認識している。
「随分、余裕そうね。赤間くん」
そこに結巳が腕を組んで、訝しげに赤間を窘めた。
「おやおや。これこれは聖堂寺家のご息女。ご自身より遥かに適正率が劣る人間に負けたあなたが何の用ですか? いや、しかしあんな醜態を
「兄さんの話は関係ないでしょ!」
結巳が鋭い目で赤間を睨みつけた。一方、赤間の方は悪びれる様子はない。
「それでどうする? 僕と戦う?」
「ああ、いいだろう」
隼人は赤間との戦闘を承諾した。自分以外の炎使いに興味を抱いたのだ。一体どのような方法で攻撃を仕掛けてくるのか。
今後、そのような敵と対峙する際の判断材料にするためだ。
放課後、隼人は屋上で一人、目を瞑って呼吸に集中していた。瞑想である。肉体だけでなく、精神も鍛える。
彼の師であり祖父のシライから教わった事だ。そうする事でいついかなる時も自分を見つめ直して、目標への確固たる想いを強固にして行くのだ。
「何しているの?」
ゆっくりと目を開けるとそこには聖堂寺結巳が不思議そうに隼人を見つめていた。
あまりに集中しすぎていたせいで彼女が近づいているのに気がつかなかったのだ。
「瞑想だよ。俗に言うマインドフルネス」
「それくらい知っているわよ。なんで、ここでやっているのよ」
「校舎内も寄宿舎もうるさくて仕方がない。だからこうして静かな場所で行うってわけだよ」
隼人にとって校舎は騒音と同級生からの敵意の吹き溜まりだ。そんなところにいては鍛錬どころではない。
「何の用だ」
「別に。私もここに来ただけ」
そう言いながら結巳が手すりにもたれかかった。おそらく昼間、赤間から実兄について言及された事を薄々気にしているのだろう。
しかし、そんな素ぶりを見せないのは彼女自身のプライドの高さだ。
そんな事を思いながら、夕焼けに染まりながら揺れる白く長い髪を眺めていた。
その姿に隼人はかつての記憶を連想させた。
「お前。どこかで」
「えっ?」
「いや、なんでもない」
隼人はすぐさま言葉を濁すと、ゆっくりと立ち上がった。
「明日の試合、気をつけなさいよ」
「言われなくても」
彼女の心配をよそに隼人はゆっくりと屋上から降りていった。
闘技場の待機室。 隼人は数分後に行われる試合に備えて、軽くストレッチを行っていた。
「一ヶ月に二回も宣戦布告されるってどういう事だよ」
愚痴はこぼしつつも隼人は対戦相手について少し調べていた。
赤間透 。
「忌獣狩りを生業にしている分、プライドもあるってことか」
隼人は彼の境遇と以前、襲って来た三人組の事を思い出した。
「松阪さん。出番です」
すると扉の向こうから声が審判の声が聞こえた。どうやら出番のようだ。
闘技場に足を運ぶとそこには既にたくさんの観客がいた。そして、自分の対面側には不敵な笑みを浮かべる赤間徹が立っている。
「今日で君の嘘を暴くことにするよ」
「そうかい。なら二度とそんな澄ました顔できないようにしてやるよ」
すぐに片付ける。隼人の脳裏にあるのはその思考だけだ。
「始め!」
審判の言葉を皮切りに観客達が湧き上がった。
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