「剣戟」

 隼人は彼女の唐突の発言に首をかしげた。なぜ、いきなりそのような事を言い出したのか理解できなかったのだ。


「なぜ?」


「納得がいかないのよ。聖滅具ヴァジュラの適正率最下位でありながら特待生。しかも入学試験一位なんて。なんで私が次席なのよ!」

 結巳が端正な顔を歪ませて、厳しい表情を作る。目元がわずかにつり目なだけあって、少し迫力すら覚える。


 聖滅具ヴァジュラ

 忌獣を討伐する組織である忌獣対策本部が開発した対忌獣用の武器。


 そして武器を扱う上で重要なのが適正率である。最高値であるⅢから最低値のⅠまで存在しており、それにより引き出される力の度合いも変わる。


 隼人の適正値は最下位クラスⅠだが、数多の入学生の中で成績一位に輝いたのだ。


「たかが入学試験だぞ? これからの授業とか訓練で結果出せばいいじゃねえか」


 入学する事のみを目標にしていた隼人にとって、結巳の発言は飛んだとばっちりだった。


「たかが? 私は由緒ある聖堂寺家の人間! 一般生徒にましてや、適正最低値の人間に負けるなんて私のプライドが許さないのよ!」

 隼人の言葉が癪に障ったのか、結巳が声を荒げて詰め寄ってきた。この学園には先祖代々、忌獣狩りを生業としている一族もいる。


 その家系のほとんどは高い適正値を誇っており、現場でも活躍している。この学園ではの適正値で生徒の優劣が生まれているのだ。


「私も説得しているんだけど、この子ったら全く効かなくてね。一度だけ。試合をお願いできないかしら?」

 美香が手のひらを合わせて、隼人に頼み込んできた。隼人は考えた。正直、他人との関わりなど彼にとって時間の浪費に等しい。


 しかし、相手は聖堂寺家の人間。最高値の適正率の持ち主であり、次席の実力者だ。


 この勝負に勝てば、自分自身の実力向上にもつながる。


「分かりました。それで試合はいつやるんですか?」」


「今から三時間後、校内にある闘技場よ」


「分かりました。では失礼します」

 隼人は一礼すると部屋を後にした。



 待合室の中、隼人は入念に柔軟運動をしていた。唐突の出来事だが彼自身、手を抜く気はない。


 それは将来的に戦場を駆ける戦闘員候補としてはあるまじき行為だからだ。


 度々に観客達の話し声などが待機室に流れ込んで来て、今回の来客の多さが理解できた。


「松阪さん。ご準備をお願いします」


「はい」

 隼人はゆっくりと体を伸ばして、待合室を後にした。


 闘技場に向かうと隼人はその観客の多さに圧倒されそうになった。闘技場の建物はドーム状になっており、無数の生徒たちが着席して二人を囲むように試合の幕開けを待っていた。


 視線の先では既に聖堂寺結巳が立っていた。彼女の周りからはメラメラと燃え上らんばかりの闘志を感じた。


「あいつが一位か」


「確か適正率Ⅰだろ?」


「親のコネとかか?」


「まぐれだろ」


「まあ、泣きっ面を拝んで終わりだな」


「これもう勝敗見えてるわ」

 隼人に対して怪訝な目を向け、心ない言葉を吐く客がいた。の適正率が学年最下位でありながら、入学試験を首席で合格した生徒。


 自分達よりも低ランクの人間が上位にいるのが面白くないのだ。

「完全にアウェーだな」


「準備はいい?」

 隼人と対峙する結巳が睨みを効かせながら、隼人をじっと見ている。


「おう。来いよ」

 隼人は自身が持つ刀型のを構えた。


「それでは松阪隼人と聖堂寺結巳の試合を開始します!」


 審判の声とともにゴングが鳴り響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る