「分岐点」
松阪隼人はうんざりしていた。『忌獣対策本部』の一室で尋問を受けているからだ。
「えー。松阪隼人。年齢十五歳。市内の中学校に通っている。合っているかね」
顎髭を生やした職員の男の質問に隼人は無言で頷いた。
「君から押収した聖滅具。あれはどこで手に入れた」
職員からの質問に隼人は無言を通して行く。
「何故。こんな事をした。一般人が忌獣に挑むなんてどうかしているぞ」
職員の男がため息をついている。呆れや驚き。そんな感情が混じっているように思える。
「隼人! お前また一人で忌獣を狩りに行ったのか!」
隼人の祖父。松阪シライが彼の姿を見るや否や頭部にチョップをかましてきた。
鈍い音とともに隼人はたんこぶができた感覚を覚えた。
「痛ってえな。何すんだよ」
「お前が馬鹿みたいな真似するからだろ! 申し訳ない。わしの孫が粗相を」
シライが隼人の頭を掴んで、職員に頭を下げさせた。
「あっ、あのもしかして松阪シライさんですか? かつて対策本部で名を馳せた戦闘員と呼ばれていた」
「ええ、まあ昔の話です」
シライは謙遜するような態度で職員の質問に応えた。職員の言う通り、隼人の祖父はかつて対策本部の戦闘員で数多くの戦績を残してきたのだ。
「それでなんで忌獣を討伐しに行ったんだ?」
「忌獣が出たからに決まっているだろうが」
隼人は語気を強くして答えた。
「それに戦闘員の人達は怪我もしてたし何人か戦える状況じゃなかった。俺が助けないとみんな死んでいたかもしれない」
増援が来るまで時間がかかる。その間に忌獣が他の場所に逃亡し被害が拡大する恐れもある。彼自身、自分の行いを悔いてはいない。
「忌獣なんか殺しとらんで勉強せい。今年受験生だろ?」
「進学する気ねえよ。特訓の時間減るし。大体。高校なんて高卒認定試験さえ受かれば問題ないだろ?」
隼人にとって特訓の時間とは生き甲斐そのもの。自分を昇華させて、忌獣をより多く駆逐する力を手にすることが出来る時間なのだ。
「君のやった事は厳重注意せねばならない事だ。しかし、剣の腕や身体能力は見事だった。そこでだ」
職員の男が一枚の紙を隼人の前に置いた。そこには『特別待遇生。金剛杵学園入学手続き書』という文字が書かれていた。
「金剛杵学園って対策本部の戦闘員を育成する学園ですよね」
「そうだ。君の実力の高さは他の戦闘員達が目撃している何せ戦闘員達が揃っても倒せなかった忌獣を抹殺してしまったのだ。十分に値する。どうだい?」
「嫌ですよ」
「どうして?」
「みんなと同じ。行動。規律や統制に縛られている組織ですよね? そんな頭固い組織に馴染むなんて無理ですよ。俺は一人だから強くいられる」
隼人は鋭い視線を職員に向ける。これ以上、踏み込んでほしくないと意味を含んだ彼のささやかな抵抗である。
「ちなみに特別枠というからには他の生徒とは違う待遇を受けるということじゃろう?」
隣にいたシライが顎を添えながら、職員に質問した。
「ええ、特別待遇生には放課後、対策本部の戦闘員として任務に参加する事が可能だ」
「つまり学生兼戦闘員という事ですか?」
「そういう事」
職員の言葉に隼人は納得して頷く。これから学歴を手にして、技術も手に入れて、おまけに放課後は忌獣を討伐できる。隼人にとっても決して悪くない条件だ。
「隼人。学園に行けば、剣術だけではなく同年代の人間やベテランの教官もおる。そこから学べる者もあるんじゃないのか?」
祖父から教わったのは剣術と体術だ。それ以外の要素を学べるとすれば、確かに問題はない。
「それにお前はまだ若い。剣を教えたのはわしだが、剣だけに時間を使うな。今しか出来ない事はたくさんあるんだ。あまりに勿体無いぞ」
シライが悲哀の混じったような声で語りかけてくる。
「じいちゃん」
隼人はバツの悪そうな表情を浮かべた。彼自身、己の悲願のために祖父から剣を教わったので、彼には借りがある。
「分かった。いいよ。入学する」
隼人はため息に混じりに入学を承諾した。この日、彼の進学が決まった。
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