浮気の残り香『解決編』〜消えたその香り〜その1


 母親の『浮気の残り香』臭い香水の匂いがしたときからもう2年が経つ。


俺は高校三年生を迎える・・・はずだった。


 高校3年生に上がれないのは学校から出席日数が足りないと言われ留年を言い渡されたからだ。


 俺は一年生の秋頃からずっと引きこもっていた。自分の部屋からほとんど出ていない、トイレや風呂以外はずっと部屋に引きこもっている。


 理由は俺が人間不信になったことだ。


 その原因は2つ…



 1つ目は母親が浮気をしていることを知ったことによりそれから見える世界が変わったことだ。


 例えば朝から晩までずっと仕事で「しんど〜い!」と言いながら帰ってきた時のことだ。


 昔なら母親が家族のために頑張ってるから俺も何か母親手助けにならないかと思い味噌汁を作り置きしたり、休日に肩でも叩いたりしてやった。


 母親のために俺はバイトをしてマッサージ機を母親にプレゼントしようとも考えていた。


 少しでも母親の負担を減らしたいと思っていた…


 だが今ではその気持ちが全くと言っていいほどない。


 逆にあるのは母親への疑いだ。


 もしかしたら仕事とか言って実は休みで浮気相手と一日中デートをしているのではないか……

 そう母親を疑うようになってしまった。


 そんな訳ないというのはわかっているがどうも頭の中で勝手にそう考えてしまう。


 母親のバイトは固定勤で毎週のように同じ日同じ時間に仕事に行っている。嫌でもいつ何時に仕事があるのか全てわかる。


 でも・・・・・・もしかしたら仕事先に「体調不良で今日休みます」とズル休みをして、息子の俺に「仕事に行ってくる」と言い浮気相手とデートに行くつもりでは無いか?


 そう考えれば考えるほど不安になって母親の言動を信じることができなくなった。


 俺が耳栓をまだ買ってなかった時のことだ


 夜、母親と父親の営みの時、ベットを「ギコギコ」と揺らしながら母親の喘ぎ声と共に「あなた愛してるわぁ~!んあっ♡」と聞こえたことがある。


 今考えるとその言葉は多分、いや百嘘ひゃくうそだったのだろう。気持ちがこもっていない『愛してる』は本当に聞くたび俺の心を痛めつけてくる。


 もうやめてくれと心の中で願うばかりだ。


 そんな俺が精神的にショックで引きこもらずに出来た理由が、"彼女"がいたからだ。


 そしてそれが2つ目の原因…




 俺には同じ高校で出来た彼女がいる。


 初めての彼女だった。


 4月に同じクラスになり、すぐ仲良くなった。1ヶ月もしないうちに両思いで俺から告白をして付き合うことになった。


 とても可愛く清楚で誰に対しても笑顔で接していた。頭はそれほど良くないがちょっと抜けてるところも俺からは可愛く見えた。


 初めての彼女と言うのもあり、一緒に帰ったりするだけで緊張して何を話せばいいかわからず黙り込んでしまう。


 そんな俺に彼女は常に一から優しくリードしてくれていた。そうしていつしか彼女が俺にとって一番の拠り所になっていた。


 母親の浮気を知って2ヶ月近く経った頃だった。


 母親の浮気で精神的に耐えるのがきつくなったのかはわからないが彼女との帰り道に不意に暗い顔をしてしまった俺に彼女は言った…



「どうしたん?暗い顔して…」

「前々からずっと気になってたんだ!」

「いつもなんか頑張って笑顔を作っている感が否めないんだよね!」

「困ったことがあったら私に相談してね!」

「絶対力になる!」



 俺は戸惑った。こんな複雑な家庭事情に彼女を巻き込むべきだろうか…


「・・・・・・」


「黙ってないで言ってーや!」


「・・・」

「うちの母親・・・浮気してるんだ…」


 俺はもうひとりで抱えきれず、彼女に今までの事を全て話した。


 『だって彼女は俺が一番信頼している人だからだ』


 それを聞いた彼女は微笑んで優しく抱きしめてくれた。俺にはそれが暖かく感じ、彼女の肩でポロポロと涙を流しながら子供のように泣いていた。


 だが・・・


 俺が母親の浮気を打ち明けた日から一週間もしないうちに突然別れを告げられた。


 最初は付き合ってもう2ヶ月経っているというのにまだ手を繋ぐだけで緊張するのがそろそろウザく思われたのか、はたまた俺と付き合ってて楽しくなかったのかと俺は自分を責めた。


 だが別れた本当の理由は別にあった。



 それを知ったのは一学期が終わり、夏休み明けてからもう1ヶ月経った頃だった。


 ある日の放課後、

 俺は忘れ物の愛情のこもっていない空の弁当箱を取りに教室へ戻ろうとすると、教室から彼女・・・だった人の声とその女友達の声が聞こえてきた。


「あ、そか、これから中間テストか!」

「全然勉強してねーし、前回欠点補修でギリだったしよ!」


「よなー、私もミドリとおないやったわ!」

「夏休みに戻して欲しいわ!」


「ほんまそれなぁ~!」

「あ、そういえば"あすか"!」

「夏休みはあの童貞彼氏とヤッたん?」


「ちょ何言ってんのミドリ!」

「私にそんな彼氏なんておらんわ!」


「フハッ!そうやったな!」

「てかなんで別れたん?」


「え~?そんなのあの童貞が面倒くさい相談してきたからに決まってるでしょ!」

「なぁーにが"母親が浮気をしているんだ"」

「そんな相談すんなよなぁー」


「まぁな、アイツ多分今でも両思いであすかと付き合ったとか思っているぞ!」


「なにそれキッモ!私があんなフツメン童貞に惚れると思う?」


「なわけねーな!ハハハハハッ!」

「付き合ったのはあくまであいつを財布代わりにするだけなのになー!」


「ほんとそれ!正直誰でも良かった!」

「ただアイツはまだ誰とも付き合ってないし、手を繋いだだけで緊張するから、エッチしたいなんて勇気ないだろうし、色々と初めてだから付き合うってのは彼女に貢ぐものとか頭に吹き込んでやったわ!」



 それを聞いた俺は放課後誰もいないトイレに逃げ込んで、目の前がぼやけるくらい泣いていた。


 もう嫌、この苦しみから解放されたい、もうしにたいしにたい、シニタイとトイレットペーパーで涙とダラダラと垂れていた鼻水を拭きながらそう思っていた…


 あの後教室での会話は聞いていない、正直もうそこに戻るのが怖かった。


 腐った弁当と腐った性格の元カノを残して俺は走って家に帰った。


 このことがきっかけで俺は誰も信じれなくなった。


 母親の浮気で学校と自分の部屋と彼女と居るときだけが居場所だったが、放課後教室で聞いた彼女とその女友達の会話で俺はもうどうでも良くなり自分の部屋に引きこもるようになった。



 一年生の時は、何回か頑張って登校したり、テストは誰もいない空きの教室でテストだけ受けて帰ったりして、なんとか留年からはまのがれた。


 だが二年生からは行く気が起きなくなった。もうどうでもいいやと思っていた。


 母親は「いい加減学校いけ!」と言っていた。

 その声はなんだか真っ当な母親役を演じている下手な声優の声にしか聞こえなかった。


 その母親に父親は「思春期、色々悩む時期だ」と俺はドア越しにその声が聞こえた。


 それから一年近く父親は俺に何も言わず、毎日ご飯をドアの前に運んでくれた。


 ただ毎日ご飯と一緒に涙の跡のついた一枚の手紙を添えていた。


 そこに書いていたのは…………



「父さんはずーと味方だ」


 というメッセージだけだった。





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