第244話 もしかしてココはあの場所ですか



「いやいや、落ちいて考えよう。そもそも一番初めに時空移動した時も一人だったじゃないか」


 あの時のことを考えれば、あの時より状況がわかっているだけマシだ。なんったって頼れる其角きかくさんを探せばいい。


 見たところ森の中の広場みたいなとこだから、山を降りれば人里に出るだろう。そしたら聞き込みだ。幸い着替えもせずにいたから暖かい格好だし。


 そう思って上着のポケットに手を入れると、小さな粒みたいなものが指先に触れる。取り出してみれば反魂玉だ。


 そういえば直前にオペラから受け取ったのだった。


 全部で四つある。


 部屋にいた時のままということは——やはり胸の内ポケットには美紅みくつのが入っていた。


 なんとも心強い。


 僕は少し気を取り直して、足取りも軽く山を降り始めた。





 森の中を進んでいくと、不意に鼻先を掠めたものがある。


 匂いだ。


 それも何かが焼けたようなきな臭い匂い。


 薪を炊いている匂いだろうか?


 それにしては、なんともイヤな匂いだ。胸騒ぎがするような……。


 少し足早になって進むと、急に見晴らしの良い場所に出た。そこは小高い山の上の崖で、辺りを見渡せた。


「あ!」


 目の前に広がる景色に思わず声が出た。


 ——島だ!


 僕のいる高台から浜辺と集落のようなものが見え、その向こうに山が見える。その山の形を僕は覚えていた。


「鬼ヶ島……!」


 ここは鬼ヶ島だ。


 初めて『鬼丸』を抜いた時に連れてこられた場所、鬼ヶ島。


 だけど多分時間が違う。


 眼下に見える集落はあちこちから火を出していて白い煙が立ち昇っている。そしてその少し離れたところにも煙が見える。


 森の木のせいで見えにくいが、あちらが鬼たちの集落なんだろう。


 手前の浜辺の集落は人間の——美羽みう雪牙丸せつがまるの住む所だ。


 そのどちらも、前に来た時には燃えてなかった。


 だがあの時に住居自体を見たわけじゃない。すでに無かったからだ。


 だから今、目の前で屋敷が燃えているということは——?


 美紅みくの話してくれた最後の時の事を思い出す。燃え盛る平家の屋敷の中で彼女はその短い生涯を閉じたと語った。


「もしかして……今、美紅と雪牙丸が戦っているのか!?」




 つづく

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