第184話 なぜか憎悪を向けられる僕



「ユウタ……!」


 おびえの混じった声を上げたのは、マヤさんだったのかヨウコさんだったのか——。


 ユウタはそんな二人を無視して、僕と曲垣まがきくんとオペラの前に立ちふさがった。キャップのツバの下からのぞく顔は確かに子どものものだ。小柄で、僕らの胸ぐらいしかの背丈だ。


 それでも睨みつけてくる目線はとても小学生のものではない。もっと違う『何か』だ。


「お兄さん達、何か知ってるんだって? 教えてよ、僕にもさ」


 その不気味ぶきみさに、さすがのオペラも後退あとずさりして曲垣くんの後ろに隠れる。自動的に僕が一番前になった。


 想定外だ——。


 だが、こうなったら正直に話すしかない。僕はついさっきたどり着いたばかりの『反魂玉』の真実を元にユウタに尋ねる。


「あのたまご型の宝珠は『反魂玉はんごんだま』と呼ばれる物なんだ。僕らはあの玉の元々の持ち主のことも知ってるし、使い方もわかってる。使えばどうなるかも——」


 ユウタは僕の言葉を強く遮った。


「知ってるからなんだ? 返せとでも言うのか?」


 その剣幕に僕の方が驚く。


「え、と……危険な物だから返してもらいたいけど。でもその前に君に『反魂玉』を預けた人がいるでしょ? ヨウコさんに渡すように指示されたんじゃないのかな?」


「違うね」


 ユウタはピシャリと言い切ると、僕を睨んで来た。


「『反魂玉』っていうの? を五個も集めたのはレッドと僕だ。渡す相手を決めてるのも僕だ。あんたらには関係ない」


 ユウタは語気を荒げてそう言った。


 ——待て。


 ——待て待て待て。


 今、なんて言った?


 五個?


『反魂玉』が五個?


「どういうこと? 『反魂玉』が五個もあるの!?」


 僕の叫びにユウタがビクッとする。


 いや、それよりも——。


「君が『反魂玉』を配ってるの?」


 驚きの連続で声のトーンが落ちた。それをどう受け取ったのか、ユウタが気勢を盛り返す。


「……ははッ。なーんだ、オニイチャン達何も知らないのにここへ乗り込んで来たわけか」


 小学生にそう言われてはカチンと来る。


「知らないわけじゃないよ! 間違った使い方をしたらどうなるかぐらい知ってるさ」


 僕は手帖の世界で過去を見て来た。『反魂玉』を死に際にただ飲み込んだら、人の心を無くした化け物になる。


「ふうん、全く知らないわけじゃないみたいだね」


「そうだよ! だから君も危険な物を人にあげたりしないでね」


 優しく言ったつもりだったが、ユウタには逆効果だった。


「子ども扱いするな」


 怒気を含んだ声で言い返される。ユウタは後ろを振り向き、叫んだ。


「レッド! 仕事だ!」


 赤い影のように音も無く店に入って来たのは、赤いダッフルコートの人物——レッドだった。




 つづく

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