第41話 皆で育てる。

朝が来て昼が過ぎた。

食事休憩なんかはしたが追っ手の心配がある以上、最低限の休息で歩き出す。

ここに三ノ輪 彦一郎がいれば、冷静な判断、大人の判断でペース配分もしてくれたが三ノ輪 彦一郎はおらずに戦場 闘一郎達もついハイペースで無理をさせる。


見渡す限りの地平線を突き進む梶原 祐一達は疲弊していた。

景色が変わらないと言うのは単調でならない。

思わず自分の体調、疲労なんかが気になってしまう。


まあ、逆に運が良いと言えばプリンツァの言っていた野党なんかは出てきていない。


単調のせいだろう、外に出られたとご機嫌だった桔梗と勝利は早速飽きていてセオとワオに抱っこをせがむ。


セオとワオは亜として立候補をして食材等人一倍荷物を持っていて「あわわ…ごめんなさい」「この鞄にはご飯があるんです」と謝ると勝利はイヤイヤをして桔梗は泣いた。


草加 岬が「ほら桔梗はこっち」と手を出そうとするが玉ノ井 勇太が「荷物があんだから俺が抱く」と言って桔梗に手を伸ばす。

だが桔梗は嫌がる。これでもかと意地を焼いて嫌がった。

完全にセオワオを抜かすとママっ子になっていた桔梗は玉ノ井 勇太を拒否する。


「桔梗はママっ子なの、それに玉ノ井君は身体痛むんだから無理しないでキチンと歩いてよ」


草加 岬の言葉に申し訳なさで顔がこわばる玉ノ井 勇太が「俺は父親だ、やらない訳には…」と言ったところで谷塚 龍之介と沖ノ島 重三が玉ノ井 勇太達の前に出てくると力自慢の沖ノ島が軽々と桔梗を肩車して「高いだろ!皆の分まで前をよく見てくれ」と言う。

桔梗は一瞬固まった後で「うん」と返事をした。

谷塚 龍之介は勝利に「勝利も来い」と呼んで抱き上げると「遠くを見ておけ」と言う。

まだ話なんてろくにできない勝利だがキチンと谷塚 龍之介とのコミュニケーションは成立していて勝利は大人しく遠くを指差して「あー!」と言い、谷塚 龍之介が「任せたぞ。怪しいものを見かけたらキチンと言うんだぞ」と返す。


「谷塚…」

「気にするな。人嫌いでも子守りはする。旅は長い、後半どうやっても親以外NGになった時に頑張れ」


「沖ノ島君」

「桔梗は仲良くしてくれるから俺でも大丈夫。戦いがなければ力自慢は荷物持ちしかないしな」


玉ノ井 勇太と草加 岬が申し訳なさそうに言うが谷塚 龍之介も沖ノ島 重三も意に介さない。そして自分達の装備もあるというのに物ともせず桔梗と勝利に話しかけながら先に進む。


「あー、玉ノ井さん達、皆が桔梗ちゃんと仲良しなの知りませんね?」

「しょっちゅう皆それぞれで遊んでたからな」

唖然とする玉ノ井 勇太と草加 岬に大塚 直人と梅島陸がツッコむ。


「え?そうなのか?」

「いつの間に?」


全部セオとワオに任せてしまっていると思っていて、戦いばかりに没頭していた玉ノ井 勇太と草加 岬は驚きを口にする。


ドヤ顔の豊島 一樹が「そりゃあいつだって時間はあるんで、俺は来るべきパパになる日のためですよ!」と胸を張りながら言うと王子 美咲が「相手いればねー」と後ろからツッコミを入れる。


「酷え!大塚さん、もうナンパっすよ!ナンパしましょう!」

「おう!俺らの育児スキルでモテような」


「桔梗ちゃん!沖ノ島が疲れたら俺の所おいでよ!」

「勝利は俺とお歌を歌おうな!いつもみたいに「あー」で合わせてくれよな」

豊島 一樹の言葉に町屋 梅子が「歌ってアレ?梶原君に聞かれていいの?」と言う。


「豊島?どんな歌を歌うんだ?」

「創作ですよ〜」


「どんな歌だ?歌えないようなのを勝利に聞かせたのか?」

「え〜っと…」


歯切れの悪い豊島 一樹を梶原 祐一がジト目で見ていると町屋 梅子が「歌ってあげれば?」と言う。

確かに説明よりかはと言った豊島 一樹が「では、豊島 一樹!歌います!」と言って歌を歌うと確かに勝利は合いの手のように「あー」と歌う。


だが問題は歌詞だった。


俺は格好いいのになぜモテない。

彼女が欲しい、嗚呼彼女。彼女が欲しい。彼女が欲しい。

世界の半分は女の子、なら彼女ができておかしくない。

ならなぜモテない?

もしかして皆遠慮してるのか?

そんな必要ないから早くおいでよ子猫ちゃん


そんな歌詞だった。

しかもそれを豊島 一樹は恥ずかしげもなく歌うし、途中から大塚 直人と肩を組んで歌い出す。

二番はその場のノリで歌うから決まった歌詞はないと言っていて、「俺は優しいのに何故持てない」という歌い出しから楽しそうに歌っていた。


大塚 直人は最後に桔梗を見ると「桔梗ちゃん!桔梗ちゃんはモテない男を笑うような女の子になってはダメだよ!」と言い、豊島 一樹も「慈愛に満ちた優しい子に育ってくれよ!」と言う。


ここまでがルーティンらしく、それを聞いた桔梗が手を上げて元気よく「はい!」と返事をしてセオとワオを見ると、セオとワオが「偉いですよ!」「立派です!」と拍手をして褒めると桔梗はニコニコと照れて沖ノ島の頭に抱きついていた。


話を聞くとセオとワオは食事の用意をしていても歌が始まると手を止めて桔梗の返事を待って「偉いですよ!」「立派です!」と拍手をして褒めていたと言う。

ちなみに大体その間に梶原 祐一は武器の手入れを行っていて、宮ノ前 桜は弾薬の管理やパチンコのゴム交換をやっていた。


一通りのやり取りを見て玉ノ井 勇太と草加 岬が「…なんか、俺達の子供だけど皆に育ててもらってたんだよな」「うん。私たち2人だけなら育てられてないよね」と言って恥ずかしそうな顔をすると梶原 祐一と宮ノ前 桜も「俺もそれ思う」「本当、日本に帰ったら誰に何を教えてもらっていたかリストにしないと」と言っていた。


そして4人が皆に感謝を告げると皆も「死んじゃった連中も色々相手してくれてたんだぜ?」「でも真由なんかは桔梗ちゃんが居るから頑張れるって言ってたよね」「桔梗の「はい」って気持ちのいい返事は小菅の奴が熱心に教えてたよな」と言う。

4人が亡くなった皆にも感謝を告げると豊島 一樹が「まあ、文京みたいに往年のギャグを勝利に仕込もうとしてたけどね」と言って感謝の気持ちから湿っぽくなった空気を吹き飛ばしてくれる。


その後で梶原 祐一と宮ノ前 桜は「まあ、あの歌は忘れさせよう」「そうね。桔梗ちゃんは女の子だけど勝利が大塚君や豊島君みたいになったら困るわ」と言って真面目な顔で谷塚 龍之介の肩車でニコニコしている勝利を見る。


「え!?何それ!酷くない?」

「俺たちって少子高齢化を止めるために降り立った天の使いよ?勝利をクソつまらない草食系にしたくないだろ?それとも小台 空みたいな子にしたいのか?」


確かに梶原 祐一の目で見て、大塚 直人と豊島 一樹と小台 空なら悩むまでもない。

「…う…」と言いかけた所で宮ノ前 桜から「バカ!加減でしょ!そんなんじゃ幼稚園で女の子に抱きついちゃうって」と制止して皆がようやく笑う。


バカ話に花を咲かせると案外代わり映えのない景色も苦にならずに歩ける。

不満が少なくなったことに甘えておんぶと言ったエグスを背をう群馬 豪が「何とかなりそうだな」と言い、戦場 闘一郎も「ああ、大体3日離れれば追っ手も追いつけない」と言っていた。

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