第34話 教師・三ノ輪 彦一郎。

千代田 晴輝と上野 桜子の仲を見ながら最後尾の三ノ輪 彦一郎が「ふふ。また仲良くなる生徒達が出来て先生は幸せですよ。梶原君、殿は先生が立ちますから千代田君の荷物と千代田君を頼みますね?」と指示を出す。


普段あまりこういう事を言わない三ノ輪 彦一郎に梶原 祐一が「あ?…おう。先生?どうした?」と聞く。


「いえいえ。僕はこの4年の為に教師をしていたんだと思いました。梶原君、僕の妻は桃子と言います。娘の名は桃香。妻の桃から取りました。 やはり子供は親と居てこそですが幸せになれない子もまた居ます。先生はそう言う子達を救える教師になりたかったんです。

妻もそんな僕の志を誉めてくれました。

でも日本の教育は僕向きではなかった。

日々ニュースになるイジメ問題。教師内でのトラブルやイジメ。過重労働による自殺。

教師も人間です。致し方ない事もありますがあまりにも悲しかった」

「だから先生?どうした?」

梶原 祐一が立ち止まって心配そうに三ノ輪 彦一郎を見た時、三ノ輪 彦一郎は「梶原君、君は先生向きですよ。良かったら教師を目指してください」と言って微笑んだ。


「おい!話聞けって!」

「ふふ。4年間キチンと君達を支えられたか、それ以前から良い教師だったか…」

三ノ輪 彦一郎は梶原 祐一の話には答えずにユータレスの方をみて呟いていた。


梶原 祐一と三ノ輪 彦一郎が話している間に先頭の戦場達は門について門番を制圧すると門番の持つ鍵で門を開ける。


「開いたぞ!早く出ろ!出たら扉を氷結弾で凍らせて時間稼ぎをする!」

1人また1人と出て行く中、三ノ輪 彦一郎は戦場 闘一郎に「僕はここまでです。こちら側からも凍り付かせて更に足止めを行います」と言う。


戦場 闘一郎は「何を言ってます!」と声を荒げるが首を横に振った三ノ輪 彦一郎が「こちらは桔梗さんと勝利くんが居てどうしても追いつかれます。本来なら引率者が最後まで引率をするべきですが戦場君になら任せられます。妻と子には謝っておいてください」と言って再び微笑んだ。


「そんな!ここまで来たんですよ!」

「そう。ここまで来ました。何度子供達を見送る事が辛かったか…。南北高校の岩渕先生が亡くなる時、私に子供達のために生き恥を晒してくれと言いました。だから見送ってしまう事が、生き残ってしまう事が辛くても頑張りました。今こここそ命の張りどころです。大切な生徒のためなら命は惜しくありません。よろしくお願いします」

戦場 闘一郎に向かって深々と頭を下げる三ノ輪 彦一郎。

ここから先を任せる重責に三ノ輪 彦一郎は謝っていた。


このやり取りに怒った梶原 祐一が三ノ輪 彦一郎の肩を掴んで「良いから行こうぜ!」と言うが三ノ輪 彦一郎は「いいから行きなさい!玉ノ井君は怪我で以前のように振る舞えません。群馬君、戦場君は付き合いの浅さで不和の対処が難しい。だから君がやるんです!」と声を張る。


梶原 祐一は嫌な感覚に囚われていて涙を流しながら「先生、んな事言うなって…行こうぜ!日本に帰ろうぜ?」と言って三ノ輪 彦一郎の肩を両手で掴む。

三ノ輪 彦一郎は梶原 祐一の涙を見て嬉しそうに「ふふ。ありがとう」と言うと肩を掴む梶原 祐一の手を優しく振りほどいて「でもここまでです。戦場君!僕の食糧は持っていってください。小台君の話は僕がしますからその間になんとかコルポマまで逃げてください」と言った。


何を言っても無理だと理解をした戦場 闘一郎は「わかりました」と言って荷物を受け取ると梶原 祐一の肩を掴む。


「おい!戦場!」

「先生の覚悟を無駄にするな!」


数秒の沈黙。

諦めた梶原 祐一がまだ門の内側に残る千代田 晴輝と上野 桜子に声をかける。


千代田 晴輝と上野 桜子も三ノ輪 彦一郎を見捨てられないと残っていると思っていたのだが、突然千代田 晴輝は「僕は先生とここに残る。上野さん、今日までありがとう。何度か死のうとしたけど上野さんが居てくれたから頑張ったんだ」と言った。


驚いて「千代田君!?」と聞き返す上野 桜子に千代田 晴輝は困り笑顔で「ほら、代筆してくれたから知ってるよね?僕は帰りたくないし、帰ってもこの右手だと意味がないんだ」と言う。

上野 桜子が首を横に振って「そんな事…。助けるよ!助けるから帰ろう!」と言うが千代田 晴輝も首を横に振って「君は美大生になってあの絵で皆を感動させて。僕は初めて絵を見て感動したよ。梶原君、上野さんを頼めるよね」と言って梶原 祐一に微笑みかける。


「千代田お前…」

「足手まといなりに役に立つよ」


「バカ!何言ってんだよ!誰もお前を足手まといなんて思ってないだろ!行くんだよ!」

「行かない!早く行くんだ!僕達の犠牲を無駄にしないでくれ!その代わり上野さんを日本まで連れて行ってよ」


千代田 晴輝の力強い眼差しと声に梶原 祐一が「お前…」としか言えないでいると三ノ輪 彦一郎が「そうですね。千代田君は先生と居てくれますか?」と聞き、千代田 晴輝は「はい!」と返事をした。


「さあ、話は決まりました。段々とうるさくなってきましたからさっさと行ってください」

三ノ輪 彦一郎は言うなり皆を追い出して門を閉めてしまい氷結弾で門を凍らせようとする。


「先生、待って」

そう言った千代田 晴輝は右腕を切り付けるとその血を門につけてから「凍らせて」と言った。

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