XXXVII

「でも、皐月さんの中に天使がいる以上、関わらないわけにはいかない。もし、天使化の暴走で、皐月さん自体が苦しんでいたらどうする? 葵だってそうだっただろ?」


「それはそうだけど……」


 拗ねているのか、怒っているのか、分かりやすい。


「言っておくが、皐月さんと葵を選べと言われたら……そうだな……」


「なんで、そこで黙り込むのですか? 意外と、簡単ではないのですか?」


「いや……葵は可愛いし、優しいし、何もマイナスな点がないだろ? 皐月さんは、運動できるし、勉強もできる。おまけに美人だし、スタイルもいい。これはこれで悩みどころが多い」


「……変態」


「うっ……」


 葵にそう言われると、少し傷つく。


「まぁ、葵の言う通り、変態は否定できないわね。葵と藤峰先輩の評価が、どうも違うし、向こうは、外見の比較が全く違うじゃない」


「なんで、だよ。『可愛い』と『美人』だと、何が違うんだよ!」


 俺は、横から攻撃を仕掛けてくる富山に訊いた。


「全然違うじゃない! 葵が、『可愛い』と言われて嬉しいと思っているのは、確かよ。でも、そこに藤峰先輩が『美人』と言われたら、世の男は、どちらを選ぶと思う?」


 富山にそう言われると、俺は首を傾げて、少し考えるが、頭に浮かんでこない。


「犬伏、お前はどっちを選ぶ?」


 と、犬伏に助けを求めるが、


「さぁ、どうでしょう。僕は、どちらでもいいと思いますが……」


「あんたは、女に興味がないだけよ」


 と、富山に指摘される。


「こいつに訊いても、何も意味ないは、それで、どっちだと思う?」


 強く迫られる俺は、冷や汗が出て、答えるのが難しくなっていく。


 隣でそれを聞いている葵も真剣な眼差しで、こちらを見ていた。


 どっちと言われても、男の感覚と女の感覚は違う。


 悩みに悩んだ末、俺は一つの答えにたどり着く。


「カッコ可愛い?」


「はぁ?」


 富山が、「ダメだ、こいつ」というような目で、俺を見下した。


 え? この回答、ダメなの? かっこいいと可愛い、二つを織り交ぜた感じで言ってみたんだが……。不味かったか?


「あんた、何言っているの?」

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