XVI

「それで、皐月先輩はこの後、どうするんですか?」


「んー」


「な、何でしょうか?」


 俺、おかしなこと言ったか?


「『皐月先輩』じゃなくて、『皐月さん』でしょ‼」


 あ、そっち……。先輩呼びは、家だと変ですよね。


「そうね。部屋の片づけをしようと思っているの」


「部屋の片づけですか……。荷物とか、持って来たりしていたんですか?」


「うん。一応ね。この話、急じゃなかったの。一週間前だったかな? お父さんが、海外出張に行くことになって、年頃の女の子一人じゃ、危ないからって、引っ越しが決まったの」


「そうなんですか……」


 俺はその話、親から一言も聞いていませんけどね。後、年頃の男の子がいること、把握して、受け入れたのかしら、俺の両親は……。だとしたら、もう少し、デリカシーとか持ってほしいんですけど……。


「そうだ。陣平君は、いつも栞ちゃんの手料理を食べているの?」


 ちょっと嬉しそうに話をする皐月さん。


「まぁ、そうですね。家の両親が家を空けている事が多いので、家事のほとんどは、栞がしてくれますけど、俺もたまには手伝ったりしますよ。さすがに頼りっきりは気が引けるので……」


「へぇ~、そうなんだ。いいお兄ちゃんなんだね」


「そうですかねぇ~」


 俺は頭を掻きながら、苦笑いをする。


「そうかなぁ。たまにと言っても、私、お兄ちゃんが家事の手伝いをしてくれている所、見たことないんだけど……」


 と、キッチンの方からこちらの話を盗み聞きしていた栞が、余計な事を付け加える。


「気にしないでください。と言っても、俺が、家事が苦手なだけで、仕事を増やすと、怒られるんで、手を出さないようにしているんです」


「そうだよねぇ。お兄ちゃん、私が居なかったら、何もできない、ただのヒモだもん。妹としては、早く、シスコン離れして欲しいんだけどね」


 だから、余計な事を一々言うなよ。俺の印象が悪くなるだろうが!


 俺は栞の方を睨みつけるが、不敵な笑みを浮かべる栞は、どうも、俺をからかい続けたいらしい。我が、妹として怖い存在だ。


「陣平君は、シスコンなんですか?」


 ほら見ろ、話に食いついてきたじゃねぇーか。


「シスコンではないですね。ただ、妹だから可愛がっているだけでして……」

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