Ⅷ
『へぇー、なぜ、そう思うの? 私達、出会って、そんなに日も経っていないのにどうしてそんなことが言えるのかな? 根拠があるの?』
辻中は俺の方をずっと見続けてくる。確かに根拠はないが、この辻中はおかしい。
「そうだな。確かに出会って、間もないが……。しゃべる口調やその態度は、明らかに今までの辻中とはかけ離れている。もう一度だけ言う、お前は誰だ?」
そして、沈黙が続き、ようやく辻中は俺から離れてくれる。
『ふっ……ははははははっ! そうよ、私は私であって、辻中葵自身ではない。私は辻中葵の中にいる天使よ』
どうやら、彼女自身ではないらしい。でも、本当に天使だとするならば、これは天使化が完成したのではないだろうか。いや、天使化なら犬伏の話によると、暴走するはずだと、そのような話だったはずだ。
だったら、なぜ、今のタイミングで天使が俺の前に現れたのは、一体なぜなのだろうか。
「なぜ、天使がこのタイミングで俺の前に姿を現した? 辻中は、無事なんだろうな?」
俺は、辻中の姿をした天使を睨みつける。
『無事よ。と、言っても今は、彼女の同意を受けて、私が入れ替わっているだけ。用が済んだらすぐに彼女と交代するつもりよ』
「本当だろうな?」
『本当よ。もし、これが嘘だったら今頃、あなたは私に殺されているもの』
「確かにそうだな。天使の力の暴走で俺はともかく、この学校自体も跡形もなく、なくなっているよな。だとしたら、なぜ、俺の前に姿を見せた? 用とは一体なんだ?」
緊張感が走る。実際に、天使と話をするのは、これが初めてだ。一つ、何か間違いでもしたら、後々、どうなるのか、分からない。
『さて、本題に入りましょうか。用があるのは、あなたによ』
「俺に用だと?」
天使が考えていることは、さっぱり分からない。だが、一応、話だけは聞くことにする。
『そうよ。あなた、この子の事、助けたいと本当に思っているのかしら?』
「ああ、できるなら、助けたいと思っているよ。さすがに天使化になって、暴走をされたらこの世界が終わるらしいな。それに辻中には、そんな重荷を背負わせたくはないと思っている」
『なるほどね。じゃあ、この子の事、愛しているのかしら? 天使化を抑えるには、強い愛がなければ無理よ。本当に助けることができると思っている?』
「それは……」
天使に辻中の事を愛しているのかと言われて、言葉がすぐに出てこない。
確かに愛がどんなのかは分からないが、助けたいという気持ちは本当だ。でも、辻中の目、いや、天使が見つめてくる目は、本気で辻中を愛するのか、俺を試しているように見える。
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