鳴神大戦記-最果て城主の仮想現実-

舞茸イノコ

序章 『取り残された世界にて』

『1』


 技術の革新は日々行われている。それが顕著に出るネット社会において、完全没入型のゲームというのはユーザーからすれば当たり前…というのは建前で、思考のラグがあったり、脳や身体への影響はないのかと様々な議論がなされていた。



 しかし、サイハテゲームが作り出した「鳴神大戦記」。それは従来の全てが革新的で、本当にその世界の住人として生きていくことが出来るのだ。いわば、精神全てが作り出したアバターに憑依したような。職業適正が存在し、職業ごとに経験値要素が変わるため、農民の職業で稲作をしてみたり、商人として暮らしてみたり、足軽として平野を駆け回り荷物や書類を届ける任務をこなしたりして適正値を上げていく。また、ある程度戦えるようになると同盟を組み、様々な怪異を討伐することでさらに成長し、上級職への道が開かれる。同盟同士のPVPや、迷宮攻略、城落とし等といったコンテンツも盛りだくさんなため、一度プレイすればその世界の良さを体感することが出来る。



 グラフィックは自然のままに、業界の革命とも言われた完全没入型ならぬ、完全憑依型とまで言わしめた鳴神大戦記という最高峰のゲームは瞬く間に民衆を魅了した。その1人である五条九十九は当時の最強同盟である「八百万」を目指して寝る間を惜しんで奮闘していく。



 結果からすれば、九十九は「八百万」に入ることができ、忍者として他同盟に隠密し、時には城主を殺し、八百万における地位を確立していた。



 同じくゲーム仲間で幼馴染の一ノ瀬七海も、1年遅れながらも戦力として申し分ないくらいまでやり込み、ようやく八百万に入ろうとするのだが、そこには思いがけない現実が待っていた。



 栄華は終わる。サイハテゲームが打ち出した最高峰のゲーム、鳴神大戦記は突然のサービス終了を告知したのだ。理由は社長である二神藤吉郎の突然の死。大混乱の運営は二者分立し、ついには倒産の危機である。幸いサービス終了は1年後と長く、最後を楽しむため沢山のユーザーが鳴神大戦記に勤しんだ。



 しかし、引退者も多く、他の完全没入型のゲームに移行する人も少なくはなかった。そうした経緯もあり、かつて最強の同盟であり最難関エンドコンテンツをクリアした八百万は事実上の解体を余儀なくされたのだ。それでも八百万に入りたい七海は九十九を訪ねたのだった。



「はぁ…七海には悪いけど、せっかく入ったところで八百万はもう解体されるんだよ」



 ベッドに寝転び、携帯にて連絡を取る青年は五条九十九。ゲーム内における職業は上級職の忍者であるが、下級職の足軽・工作兵・農民・大道芸を修め、苦節3年でようやく忍者として八百万に入ることができた。今では忍者を極め、さぁこれから…!というところで突然のサービス終了に打ちひしがれていた。



「それは私も知っているよ…。だけど、八百万は私としてのエンドコンテンツみたいなところだったから、入れるなら今しかないって思っただけだよ」



 電話の相手は九十九の幼馴染である七海。幼少期から隣人であり、家族ぐるみで生活をしてきた彼女もまた、今では鳴神大戦記のユーザーの1人だ。剣道一家に生まれ、中学時代までは有望な剣士として所属していたものの、最後の大会で大将の自分まで回らずに敗北、結果推薦枠を貰うことが出来なかった苦い過去がある。



 その当時、無気力だった七海を見かねて、九十九から誘われるのだったが、思った以上に彼とともにゲームにのめり込んでいたのだった。そして経験値を積み、上級職の侍大将として半ばなし崩し的に八百万の門を叩くことができた。



 そんな彼らも同じ高校まで進学し、ゲーム研究部の一員として楽しんでいたところに悲報という形でサーバー終了の話が耳に入ったのだ。



「それで、これからどうする?大人しく別のゲームをやってみたい?」


「そうだなぁ…同盟はゆくゆく解体されるけど、まだやってみたいことはあるんだよな。…エンドコンテンツの深淵城攻略戦って覚えてるか?」


「…あの最凶難度で城からの攻撃で小さい同盟が壊滅したやつね…。私も別の同盟で参加してたけど、ビーム打ってきたのよ!ビーム。あれだけはSFの世界だったわね…。それで、それがどうかしたの?」


「いやぁ、運が良かったのか、最終的に俺が城主を暗殺してさ…。その時に貰ったアイテムの【最果城主の権利】ってやつを使ってみようかなと」



 概要欄には「見事、最後に討伐した貴殿には最果城主の権利を与える」とだけある謎のアイテム。一応、フィールドに出れば使用可能と表示はされているため使うことは出来るのだが、当時の九十九は八百万のメンバーとして「エンドコンテンツ達成…うぉぉぉ!!」と、達成感で最近まで忘れていたのだった。



「とりあえず使ってみようよ。九十九はいつからログインする?」


「明日は高校も休みだし…今から行くか!」


「そういうと思ったから、こっちも準備OKだよ」



 準備は整い、そうして2人は鳴神大戦記へと誘われるであった。

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