第53話
本来ならば心地よい陽気に包まれているはずなのに、手にしたペンダントから伝わる冷たさに、私の心臓が早鐘を打ち始める。
“魔導紙が青に染まり、冷たくなるのは、持ち主の身に何か危険なことが起こっている”
いつでも気付けるようにペンダントに入れておいたけれど、まさか、本当にこんなことになるなんて。
予知夢で見たグレンの姿がフラッシュバックして、身体が固まってしまう。
すぐに動き出さなければならないのに、頭と身体がバラバラで、動けない。
どうしよう、私は、どうしたら……。
「――ア、――リリア!」
ふいに肩を強く揺さぶられてはっ、と我に返る。
ずっと見つめていた青が視界に残る中、視線を上げると心配そうな顔をしたギルが居た。
「大丈夫か? 一体どうした? それは……魔導紙か……?」
「ギル、さま……」
そうだ、私は今王城にいて、ギルと一緒にいたんだ。
早く、ここを出てグレンの所へ行かないと。
「青色は危険を知らせるというが……その相手は、誰だ?」
「これは……」
舞踏会での二人のやりとりを思い出して思わず口をつぐんだ私を見て何かを察したのか、ギルは「グレン、だな?」とつぶやいた。
こくり、と頷くと、ギルは真剣な顔で「心当たりはあるか」と重ねてくる。
私は、予知夢を見たこと、そして念のために魔導紙を渡していたことを伝えた。そして、今日は突然ここに来ることになったので、グレンは一人で店番をしているか、酒場にいるはずだということ――。
「わかった」
ところどころつっかえる私の言葉を優しく促しながら全てを聞き終えたギルは、私を落ち着かせるように肩にかけた手に力を入れて「まずはグレンがどこにいるか探そう」としっかり目を見て言ってくれた。
私一人でこの状況に対峙していたら、ただおろおろとしてしまったかもしれない。
ギルが居てくれて、本当に良かった。
ギルが騎士団に話をするために動いている間、私はクラリスの元へと戻る。
青ざめた表情の私をみてクラリスは慌てていたが、先ほどギルに話したことで自分の中で少し落ち着きを取り戻したのか、より簡潔に状況を伝えることが出来た。
「――それはさぞかし驚かれたことでしょう。ですが、ギルさまが動いてくださっているのできっとグレンさまも大丈夫ですよ。ギルさまが戻られたら、お屋敷に戻りましょう」
私を安心させようと、クラリスも優しい声を掛けてくれる。
でも。
「――嫌」
「リリアお嬢様……?」
「お屋敷で、結果を待つだけじゃだめなの。予知夢では私が最初にグレンを発見したわ。そこで目覚めてしまったけれど――」
クラリスも言葉を差し挟まず、じっと私を見つめている。
遂に、この日が来てしまった。正直、どうしたらいいか分からない。
でも、心の準備はしてきたはずじゃない。
大丈夫、私なら、やれる。グレンが助かる未来が、残っているはずだから。
時間を無駄にしちゃいけない。
「――私が、グレンを助ける」
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