悪役令嬢に転生したけど、剣と魔法の世界が楽しすぎてどうでもいい(いいよね?)

すみ

第一章 婚約破棄をいたしましょう

第1話 

カタカタカタカタ…………


今日も、なんで、私は、朝から、晩まで、会社に、出社しているんでしょうか???

この大きなフロアで、出社しているのって私を含めて十人ほどなのですが???

ってか、人事部って出社する必要ある?

感染症が流行って、世の中はリモートワークを推奨されてるっていうのに一体どうして??


ッタ―――――――――――ンッ!


私、一条雪いちじょうゆきは思いっきりエンターキーを押すと、眼鏡をクイッと元の位置に戻した。

二つ隣の席に座っている課長がビビった様子でこちらを眺めているのが感じられる。

視線をパソコンの画面に向けたまま、声をかけた。


「課長、何か?」

「い、いや、別に……」

「そうですか。あ、では定時なので失礼させて頂きます」

「あ、ああ、お疲れさま……」


パソコンの電源を落とすと同時に、フロアに終業のチャイムが鳴り響く。

人もほとんどいないのに無駄じゃないの……と心の中で悪態をつきながら帰路についた。


 ◆


「はー……ったく、何度も「出社って意味あります?」って言ってんのに課長ったらのらりくらりなんだもんな……」


プシュっとプルタブを起こすと気持ちのいい音が響き渡る。

クイッと缶のまま呷ると、ほろ苦い旨みが滑り落ちて行った。


「くぅ~、おいしっ。さ、続きやろ」


私の大好きなRPGゲームの最新作を毎晩少しずつプレイしているのだが、そろそろ終わりが見えてきた。あと一日・二日で終わっちゃいそうな感じ。地味にレベルもほぼ上げきっているからラスボスもそう苦労しないで倒せる気もするし。


「嫌だな、こんな楽しい時間が終わってしまうなんて」


このゲームが終わっちゃったら、毎日の癒しがなくなってしまう。そんなの絶対嫌だ。でも、失敗したくないから新しいゲーム探しにもちょっと時間がかかりそう。一旦繋ぎで昔やってたゲームをしようかな。

そう思って、ゲームを収納している棚を眺める。


「あ、これ……」


手に取ったのは【聖女と12人の騎士】。

タイトルからしてこっぱずかしいけれど、あれは15年ほど前……? まだ私が心も清らかな高校生の時にプレイしていた乙女ゲームだ。主人公はある日突然聖女として認められて、そこから国が作った選ばれし者のみが通う学園に入学。そこで色々な男の子と出会って恋をするんだよね……。

推しの皇太子と結ばれそうってところでプレイ中断してたんだった。懐かしいなあ。


「なんか……やりたくなってきた」


当時の甘酸っぱい記憶も呼び起こされて、なんだか無性にプレイしたくなってきた。

あの時はそう、受験で一旦プレイを止めたんだよね。受験が終わってから幸せな時を満喫しようと思って。でも時間が空いたら熱が冷めちゃってそのままにしてたんだった。


「でもこれ、もっと酒が必要だな」


今飲んでいるものはそろそろ無くなっちゃうし、冷蔵庫にストックもない。

よし――コンビニにいこう。

善は急げ。あの時のように熱が冷める前に、プレイしなくっちゃ!



サンダルをつっかけ、いそいそと夜の道をコンビニに向かって進んでいく。

車は、来てないな。そう思って道路を渡ろうとしたその時。


私は大きな衝撃を受けて、そして――

意識を手放した。

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