第74話 距離。−2

 最初は友達が増えて嬉しかった…。そしてカナンちゃんがお兄ちゃんの妹だったことが羨ましかったけど、それは私と関係ない話だったから何も言えなかった。それから3人で遊ぶようになっただけ、特に変わることはない…と思っていたのに…。少しずつ、カナンちゃんは私のことを意識しているような気がした。


「柊…くん…、私もお兄ちゃんって呼んでいい…?」

「うん。もちろん、家族だからね?」

「う…、うん!だよね!」


 カナンちゃんがお兄ちゃんって呼んでるから…、私がお兄ちゃんって呼ぶのがおかしくなるような気がする。それでも私は柊くんのことをお兄ちゃんって呼んでいた。そう呼んでもいいって言われたから、私もカナンちゃんに負けたくなかった。


「今日は何して遊ぶ…?」

「あ、そう!洋画を見よう!お父さんが面白いって買っておいた洋画があるから」

「うん!」


 そうやって私たちは居間で洋画を見ることになった。

 詳しい内容はよく分からないけど、ロマンス映画だったと思う。切ない演技で悲しい状況を演じる俳優さんと、その主人公たちの結ばれない恋が印象的だった映画。


「……」


 私はその離れ離れになるシーンがとても悲しくてソファに座ったまま膝を抱えていた。すると、お兄ちゃんのそばでこっそり腕を組んでいたカナンちゃんが涙声で「悲しい」と話した。


「……」


 お兄ちゃんをぎゅっと抱きしめたカナンちゃんがちらっと私の方を見る。

 何その…顔は…?


「……お兄ちゃん、あの…この映画はちょっと悲しいかも…」

「うん…。そうだよね。面白いって言ったのは大人の基準だったかもしれない…」

「映画なのに…、幸せにならない。私は幸せな結末が好きだよ…」

「ごめん…。子供たちには向かない映画だった。僕もまだ子供だけど…、じゃあ…僕は部屋に入って他にないのかまた探してみるから二人で遊んでて」

「うん…」


 と、言ってから席を外すお兄ちゃん。

 居間には私とカナンちゃんがぼーっとしてテレビを見つめていた。でも、私にはこの空気がちょっと苦手。それもあるけど…、先からずっとこっちを睨んでいるような気がして緊張してしまう。私にカナンちゃんは怖いイメージ、私のことをあんまり好きじゃないって言えばいいのかな…いつも警戒しているように見えてちょっと怖い。


「茜ちゃん…って言ったよね?」

「あ、うん…。私小林茜…」

「そうなんだ…。私は神里カナン、よろしくね」

「うん…、よ…よろしく!カナンちゃん」


 でも、カナンちゃんは優しい声で話をかけてくれた。

 私の勘違いだったのかなって思いながら…、笑顔で私を見るカナンちゃんに笑ってあげた。そして短い挨拶を終えた二人の間にはまた静寂が流れていて、それを破ってくれたのはカナンちゃんの方だった。


「ねー、茜ちゃんはどうしてお兄ちゃんのことお兄ちゃんって呼んでる…?」

「それは…、お兄ちゃんがそう呼んでもいいって言ったから…」

「へえ…、妹でもないのにそう呼んでるんだ…」

「やっぱり…、カナンちゃんはこう呼ぶの嫌…?」

「全然?ただ、なんでそう呼んでるのかなって不思議だっただけ」

「うん…」

「でも、お兄ちゃんって呼ぶのは…妹の特権だと思う…」


 その話にびくっとした。

 

「わ、私だって…妹みたいな存在だから…」

「そう言っても茜ちゃんは他人だよね…?」

「……」


 その話を聞いた時、私はどうすればいいのか正直分からなかった…。

 私の居場所がなくなるような気がしたけど、そう言うカナンちゃんに私が「なんで?」って聞くのもおかしい状況だった。可愛い笑顔で優しく話しているのに、カナンちゃんの言葉には棘がある。


 答えられなかった。

 そして部屋から戻ってきたお兄ちゃんが新しいアニメを再生する時、カナンちゃんはそのそばにくっついてお兄ちゃんの肩に頭を乗せていた。私にはできないことなのに、妹になればそんなこともできるんだ…。先の言葉を忘れず、私はちらっとカナンちゃんの方を見ていた。羨ましくて、私も…お兄ちゃんとハグがしたくて…。


「……」


 でも、それに気づいていたカナンちゃんは微笑む顔をして私を見ていた。

 多分、あの日から私とカナンちゃんの間に壁が建てられていたかもしれない。カナンちゃんは私を排除しようとした。お兄ちゃんと一緒にいる時も、そうでもない時もお兄ちゃんの家で遊ぶ日はいつもそうだった。カナンちゃんは見えないところで私を仲間はずれにする。それでも、私はお兄ちゃんのことが好きだったからカナンちゃんが何をしても我慢して、我慢して、我慢してその場を守り抜く。


「……茜ちゃんは、お兄ちゃんのこと好き?」

「……」


 そして数日後、あの質問を聞いた時から私は一人になってしまった。


 お父さんとお母さんが喧嘩をするたび、私はお兄ちゃんの家に行ったけど…。

 カナンちゃんはドアも開けてくれないし、お兄ちゃんは家にないって…変な嘘もついていた。どうして私にそんな意地悪いことをするのか分からない。「私の一人しかいない大切なお兄ちゃんを取らないで」って泣いた時もあったけど、私はあの二人に無視されていた。


 理由も分からず、お兄ちゃんにも捨てられてしまったんだ…。


「どうしてそんなことをする…?カナンちゃん…」


 と、聞いた時にカナンちゃんは私の心を崩す一言を残した。


「お兄ちゃんもそう言ってたよ。もう来なくていいって」

「……」

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