起点-12
その日の夕方。
七部署第一取調室では、翔による優の取調が行われていた。
「俺がカットを殺したし、あんた達も襲わせた。
これで良いだろう」
投げやりではあるが優は、素直に自白していた。
「殺した理由は?」
「俺達を裏切ってチーム解散に追い込んだからだよ!」
「ふ~ん。」
翔は、寅三郎の言っていた通りの理由だなと思う。
「失礼します」
取調室に鑑識アンドロイドの米さんが入って来て翔に鑑定結果を渡して部屋を出る。
それを見ると翔は、改めて寅三郎の思考回路がどうなっているものなのかと驚きつつ取り調べを続ける。
「お前、殺したのは加藤さんだけじゃないだろ。
加藤さんの両親も殺してるよな」
その一言を聞き、優の顔が一気に青ざめる。
「な、何のことだよ!」
「ちゃんと、証拠は挙がっているぞ」
先程、貰った鑑定結果を優に見せる。
「お前の指紋、加藤さん宅からかなり見つかったぞ」
「俺とあいつは仲間だからあいつの家に言ったことはあるし、指紋が付いていても不思議じゃないだろう」
切り抜けたとドヤ顔で翔を見る優。
「ところがどっこい。そういうわけにはいかねえんだよな」
そう言いながら、取調室に入ってくる寅三郎。
「あ、寅さん。そちらの取り調べは?」
寅三郎は、優と共に逮捕した怪我をした従業員の取り調べを行っていたのだ。
「終わったよ。彼は素直だったし。
もう一人も自首してきて、そっちの取り調べも終わったよ」
「そうですか。で、さっきの言葉の意味は?」
「実はさ、ここに来る途中で米さんからこれ預かってきた」
三枚の写真を机に並べ始める。
「これに見覚えあるだろう。」
寅三郎の問いかけに目を右往左往させる。
その写真には当時、使用されたであろう凶器が写っていた。
「これは?」
翔が寅三郎に聞く。
「自宅から押収した物だって。
こいつが大事に大事に保管していた凶器。
ちゃんと、加藤夫妻のDNAは検出されたよ。」
「これでやったのか?」
「・・・・・・・・・・・・」
急に黙秘する優。
「マジでか! 率先して「仲間の為に自分がやりました!」って言わないんだ。
まあ、この凶器からお前以外にも他の人間の指紋も検出されたから庇いたくても庇いきれないか」
寅三郎は、ウッキウキで優を煽る。
「俺がやった。加藤の親は俺が殺した」優は、ボソッと呟くように自白する。
「まだそんな事言ってるのか?
誰に弱み握られているの? 黒道? 屋垣? それとも俺達の知らない人?」
「そんなことあるわけねぇだろ!! 一々、勘に障る奴だな。お前」
優は、寅三郎はを睨みつける。
「そうか。お前みたいな奴にはこう言う攻撃が一番効くんだよぉ~」
優を変顔でまた挑発する寅三郎。
「糞っ!」
優は手錠や腰縄を付けられ身動きがほぼ拘束されているので腹いせにガンっと机を膝で蹴る。
「寅さん、進む話も進まなくなります。そこまでで」
翔は寅三郎を注意する。
「悪い悪い。じゃあ、続きどうぞ」
「で、なんで加藤さんだけでなく加藤さんのご両親まで殺した」
翔は、再び質問を出し取り調べを再開させる。
「何度も言わせなんなよ! カットが俺達を裏切ったからだよ!」
「動機は正当だと思うけど。俺はあんたが加藤さんを殺したと考えていないんだよね」
寅三郎が自分の考えを優に示す。
「なんでだよ。俺だ。俺がやった」
「そうか。じゃあ、黒道いや屋垣だろうな。加藤さんを殺したのは」
「なんでそうなるんだよ!」
寅三郎の荒唐無稽な推理に反論する。
「だって、お前が全部やってたら面白くないじゃん」
「はあ?」
「新人君、これから屋垣の所言って、ボコボコにして自分がやりましたって吐かせよう」
「そうですね」
珍しく乗り気の翔は、椅子から立ち上がり寅三郎と共に取調室を出ようとする。
「ま、待て! 本当のことを話す! だから、だから!」懇願する優。
「お前からは、加藤夫妻殺人事件の話だけしか当てにならないから。
お気になさらずぅぅぅぅ」
寅三郎はそう言うと、翔を連れて取調室を出た。
二人は、いつものように屋上で捜査会議をするのであった。
「寅さんは、本気で黒道若しくは屋垣を疑っているんですか?」翔が尋ねる。
「正直に言うと、屋垣を一番疑っている」
「どうしてですか?」
「いや、君が事情聴取していた時に俺、盗聴器をお前さんに仕込んでいたの。
その録音データ聞いていたらあいつ、言ってたんだよ。
「凶器は発見されたりしたのでしょうか?」って」
「それのどこがおかしなことなんですか?
って、盗聴器仕込んでいたんですか!?」
「気づいていないとはまだまだだな。
それより大事なのは犯人でもないのに普通、凶器のこと気にするか。
死因は何だったんですか?とかはまだ分かるよ」
「確かにそうですよね」
「だろ。それにね君が事情聴取している間、俺も屋垣の身辺調査してたでしょ」
「はい」
「その時にね、「屋垣さんは同僚思いで優しいですし、上司、部下構わず誰にも慕われていて。今度、課長補佐に昇進予定なんですよ。(女子社員風)」って。
同僚の人たちが口を揃えて言ってたから、仲間思いも人一倍。
というより、仲間アピールする事で相手を懐柔しないと気が済まないタイプなんだろうな。
加藤って人にはその神通力が通じず、テンションが上がりすぎて殺して周りがその尻拭いって感じな気がする」
「だから、屋垣という訳ですか?」
「Exactly! でも、追い込むには凶器が見つからないとなぁ~
と言っても、手がないわけではないけどな」
「それは、なんです?」
「うん、泣き落とし作戦」
「泣き落とし作戦ですか?」
「そう。じゃあ、明日落としに行こうか」
「はい」
寅三郎は何かを思い出し、翔に要件を伝える。
「後さ、あいつがどこでトカレフを手に入れたかも聞き出しといて」
「勿論です」
翔は優の取り調べに戻り寅三郎は明日の準備の為、七部署を後にするのだった。
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