イジワルな瞬間

アオヤ

夏合宿

「最近運動会でフォークダンスやらなくなったよな? 何でだろうな? 」

今朝父が私に気まぐれにそんな事を聞いてきた。


「何でだろうね、教育上の問題とかかな? 」

私もあまり深くは知らないし、その時は興味を持たなかったので父に軽く返事をかえした。


「そんな事よりも私、学校遅れちゃうからもう出かけるね! 」


まだチョットだけ悩んでいるみたいだった父を放っておいて私は学校へ出掛けた。


私の通ってる高校は家から5分の場所にある。

みんなが忙しく朝の支度をして登校して来るのを横目に、私は朝からスマホゲームを楽しんでリラックスして登校する。


「おはよう茜! 」

いつも一番最初に登校する東野葵、彼女は委員長という私と違うなのだ。

勉強もスポーツも平均的な私(西田茜)とは釣り合わない人だと思っていたが、意外にも彼女は私に親しくしてくれる。


「おはよう葵ちゃん。今日も早いね! もうじき夏休みだから、その前のテスト頑張ろうね! 」

葵ちゃんはクラスではトップなので頑張らなくても平気そうだけれど・・・

私が頑張らないとイケナイからついつい言ってしまった。


なんだか頑張りが足りない自分が恥ずかしくなって話題を換えた。

「今朝父さんがね、『最近は運動会でフォークダンスってやらないよな?』って言ってたんだ。それどう思う? 」

『変なこと言ってしまったかも? 』とか思ったが葵ちゃんは突然叫んだ。


「それだ! 夏休みの合宿にキャンプファイヤーとフォークダンスをやりましょう! 」

突然葵ちゃんに言われて私はビックリして固まってしまって、間抜けな返事を返した。


「ハッ・・・? ハイ!」

きっと葵ちゃんには変な子だと思われた!


「あっ、ゴメンね。夏休みの合宿でやる事を考えていたらツイ・・・」

葵ちゃんは私に微笑みながら言った。


「委員長やってると勉強以外にもにやる事あって大変なんだね? 」

私はなんとなく葵ちゃんに同情してしまった。


「朝から楽しそうでイイナ? 」

後ろから今川修いまがわしゅうが登校してきて声をかけてきた。

彼は私と小・中が一緒の幼馴染だ。

彼は気が利くし、誰とでも優しく接してくれてしかもイケメンだ。

『私だけに優しくしてよね。』

なんて私は心の中でいつも言ってるが、彼に直接言った事など一度もなかった。

私は小学校・中学校の時、彼の前に立つと恥ずかしくて強がってばかりいた。

彼は私の事などきっとただの幼なじみくらいにしか思っていないだろう。


「何よ? 女子の話ししているんだから入って来ないでよ! 」

また私は強がってしまった。


修の後ろには佐々木亮が居て修が何か言おうとしていたのを遮った。

「修、お前も女子会に参加したい訳じゃないだろう? 向こうで男同士のバカ話しようぜ! 」


亮が修を連れて行った時、亮は私の顔をジッと見つめる。

実は私、亮に告白されたけど・・・

修を好きな気持ちは変えられない。

私は亮の告白の返事を先延ばしし続けた。



朝のショートホームルームの時、委員長の葵から夏休みの合宿は日光でキャンプ合宿を行う事を告げられた。

「昼間はカヌーや釣りや自然散策をそれぞれ選んで行動し、夜はキャンプファイヤーを囲んでフォークダンスをするわよ。」


彼女は決定事項をただ告げる様にキッパリと言い切る。

その勢いがあまりにも凄いので反対する者など一人もいなかった。


「反対する人は一人も居ない様なので、では決定といたします。」

葵ちゃんはヤッタ〜という顔をした。



夏休みが近づくと、私のクラスではある都市伝説が語られ出した。


今度キャンプ合宿する場所の上流には龍が棲む瀧がある。

その瀧はまるで糸を撚り合わせたかの様な形をしていてそれは男女の繋がりを象徴しているそうだ。

そして日光のキャンプ場はその下流の湖に在って湖で龍はキャンプの炎を観ている。

フォークダンスをしている人々を観ている。

そして願う者の願いを叶えてくれる。

"キャンプファイヤーのフォークダンスの一番最後の音が止んでから、相手の人と20秒以上手を繋いでいられたらその人と添い遂げる事が出来る。"

こんな都市伝説がクラス中に広まった。

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