第10話

 それは紛れもなく運命なのだと彼女は感じた。


 隣国の第四王子を招いての夜会に参加して、彼女は自分の運命の相手に出会ったのだ。


「失礼、ご令嬢?ご気分が宜しくないのでは?」


 王子の護衛として控えていた彼は、少し離れた場所で人に酔った彼女に気づき、声をかけてくれたのだ。


 誰一人気づいてくれなかったのに、が自分に気がついてくれた……。


 何故か?


 決まっている!彼が自分を見ていたからだ!!


 自分達は運命の恋人だからこそ、彼は自分に気がついたのだ!


 その頃、彼女の読んでいた小説は、騎士と令嬢の恋物語が多かった。

 自分もいつか素敵な騎士との恋に…と、夢見ていたのだ。

 そして、彼女は男ばかりの侯爵家に生まれた待望の女児であったので、家族から甘やかされて育っていた。

 望めば何でも与えられる生活をしていたがために、当然、件の騎士もになると信じていた。


 何より自分達は運命の二人なのだ。

 拒まれる理由がないと、彼女は滞在している間、彼に何度も押しかけた。


「申し訳ありませんが、自分は護衛の任務中ですので…」


 そう断られても、仕事熱心なのはいい事だと感動していた。


 しかし、来賓の王子の行く先々に現れるため、父親経由で控えるようにと伝えられた。


「嫌ですわ!あの方はあたくしと結ばれる運命の方ですのよ!!」


 この発言に父親達は慌てた。

 相手には産まれた時から決まっていた婚約者がいるのだと説明したのだ。


「そんなの政略的な物なのでしょう?隣国の侯爵家の娘であるあたくしとの婚姻の方が、あの方のお役に立てますもの。婚約を破棄して、あたくしと婚約をするように申し込めばよいのですわっ!!」


 可愛い娘のお願いでも、叶えることは出来ないと侯爵は理解していた。

 彼は愛娘が隣国の騎士に好意を寄せていると知った時から、情報を集めた。

 相手の令嬢は、隣国の王女の親友だと聞いていたから、無理やりにそんな話を押し通せば、隣国との関係が悪化する可能性があったのだ。


「ひどいわ、お父様っ!!」


 父親を散々詰って、彼女は部屋に籠って泣き過ごした。

 そうしてる間に、一行は国へと戻ってしまった。

 毎日毎日泣き過ごし、とうとう部屋から出てこなくなった。

 そんな彼女をどうすることも出来ず、気分を変えさせるために、別の者との婚約の話を進めようかということになった。


「イヤよ!あの方以外だなんて、死んだ方がマシですわっ!!」


 部屋中のモノをひっくり返しまくり、使用人にまで当たり散らかし始めた彼女に、とうとう父親は娘を怒鳴った。


「待望の娘だからと甘やかしすぎた。婚約しないというのならば、修道院に行きなさいっ!!」


 その言葉に、彼女はショックのあまり食事を取らなくなった。

 窶れていく娘に、折れたのは母親だけだった。

 彼女は隣国との関係よりも、娘の方が大事なのだ。大事な愛娘を傷つけた夫と息子達に、母親は見切りをつけた。


 二人は信用のできる使用人を使い、夫や息子達に内緒で闇ギルドを頼ったのだーーーー。

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