侯爵令嬢は今日もあざやかに断罪する
プロローグ
リーゼンブルグ王国には、国民から尊敬されている令嬢が一人いる。
侯爵令嬢アディエル・ノクタール。
彼女は現王太子の婚約者であり、王国初の王の唯一の妃となる予定の令嬢である。
そんな彼女はその姿から、『ノクタール侯爵家の黒真珠』と呼ばれつつも、ここ最近は『断罪令嬢』とも呼ばれている。
有名な理由としては、第一王子の無知に対する断罪であろう。
その一件を皮切りに、彼女は身分に関わらず、罪ある者達を正しく裁く事から、尊敬と恐れを持って『断罪令嬢』と呼ばれていった。
西に愛人を妻に迎えたがっている夫から追い出されかけている伯爵夫人がいれば、夫の不誠実を諫め、夫人の望む未来へと知恵を貸し、東に困窮する平民がいれば、不正に税を搾り取っていた領主を摘発していく。
王家の諜報部隊も足元に及ばせないほどの情報網と人脈。そして、諜報の精鋭達を使っての情報操作と証拠集めである。
とある伯爵子息が、夜会である事を何気なく口にした。
「ノクタール侯爵令嬢といえど、我が家の使用人のことまでは分かりますまい!」
ところが彼女は次に会った夜会では、執事長からメイド長。料理人や通いの庭師、洗濯婦に至るまで、名前と年齢を口にしたのだ。
これに慌てたのは子息の方だった。
アディエルは、ついでとばかりに彼が手篭めにしていたメイド達の名前まで挙げてきたのだ。
公の場での
初めて知った息子の所業に、父である伯爵はその場で息子への絶縁を叫び、夫人はショックのあまり気を失った。
伯爵一家は知らなかった。
使用人達の繋がりで、手篭めにされたメイド達が彼女に助けを求めていたことを。
社交にかまけるだけで、家のことを何も気にしていなかった伯爵夫妻は、同情の余地なしと、事前に教えられなかったのだ。
その後、夫妻は弟夫妻に爵位を譲り、領地の片隅で隠れるように暮らしている。
絶縁され、平民となった子息は、手を出した女性やその家族からの報復を恐れ、あちこちへと逃げ隠れしているうちに、空腹でふらつき、足を滑らせ川へ転落。
呆気ない幕引きを迎えたらしいーーーー。
手篭めにされたメイド達は、幸いな事に誰も子を宿すことは無かった。
そして、爵位を継いだ新たな伯爵夫妻より、謝罪と少量ながらも慰謝料が払われた。
夫妻は兄一家の所業に腹を立て、被害にあったメイド達のその後を調べ上げた。
そして、一人一人に頭を下げ、嫁ぎ先を失った娘達には、良縁の嫁ぎ先まで見つけてきたのだ。
これにより、弟一家は使用人達からも領民達からも慕われ、落ちぶれるかと思われた伯爵家は持ち直した。
ちなみに娘達の嫁ぎ先を紹介したのはアディエルである。
彼女は新たな伯爵夫妻から頭を下げられ、その願いが真摯なものであると判断して、協力したのだった。
そして、今日も誰かが、彼女に相談をするーーーー。
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