第7話
「陛下にお伺いいたします。お酒をお召の際、何かツマミとなる物はございませんでしたか?」
「っ!!」
にこやかに微笑むアディエルのその言葉に、びくりとグレイスの肩が跳ねる。
「ツマミ……。確か白い…、そう!白いマシュマロだっ!それと共に飲むのが最高の組み合わせだと…」
「そのマシュマロ。どのような物だったか、覚えておいでですか?」
「どのような?……真白く柔らかで…」
眉間に皺を寄せる王に視線が集まる中、グレイスはアディエル達を睨みつけた。
「マシュマロの材料に蜂蜜は無くてよ!」
「はい。存じ上げておりますわ」
にっこりと微笑むアディエル。
「ですが、側妃様。側妃様がお持ちになったのは、普通のマシュマロではなかったはずです」
「何を証拠にっ!」
「…使用人という者達は、仕える主に影響を受けるのですわ」
「……は?」
立てた人差し指を唇に当て、アディエルは穏やかな笑みを浮かべ続ける。
「男爵家では陛下がお立ち寄りになられた後、数人の使用人が解雇されておりました」
「アタクシがいなくなるのです!仕事が無くなれば、不要な者達がクビになるのは当然でしょっ!!」
「ええ。側妃様が嫁がれた後ならば、おかしくはございませんでした…」
「…それは時期がおかしかったという事ですか?」
王妃の言葉にアディエルが頷く。
「側妃様付きだった侍女が二人、庭師が一人、侍従が一人。陛下がバーシャン領を発たれた翌日に解雇されておりました。男爵に確認した所、この四名が陛下に対して無礼な真似をしたという理由で側妃様から解雇されたと伺っております!」
「無礼な真似?そのような事、された覚えなど私にはないのだが?」
首を傾げる王に、カイエンが大きく頷いた。
「この四名。解雇された後、それぞれバーシャン領を離れていました。確認した所、いわれの無い理由で解雇されたと…。理由も納得できないままの解雇に、かなり苛立っており、さらに色々と彼らから興味のある話を耳にしました」
チラリとカイエンはグレイスを見やった。
「侍女の内一人は、側妃様とアルベルト・カーティス殿との夜の密会を手助けしたと…」
「う、嘘ですわ!アタクシを貶めようとそのような事を…」
ギリッと歯を食いしばり、カイエンを睨むグレイス。だが、カイエンは涼しい顔で続けた。
「その密会は半月の間に、ほぼ毎晩だったとか。陛下が公務で訪れる半月前からの事だったそうですよ」
『っ!!』
驚愕の視線が側妃に集まる中、アディエルが続きを担う。
「陛下が男爵家にご逗留なされた日。庭師は庭で侍従に頼まれて鳥を殺し、その血を小瓶に移して侍従に渡したそうです。さらにその侍従は、陛下から所望されたという側妃様の指示で用意したと…」
「ち、違う!違う、違うわっ!!」
「もう一人の侍女は、当日にとある菓子店にて側妃様から頼まれて特別な菓子の受取に行っておりました」
「まあ。特別な菓子とは?」
口元を扇で隠した二妃が尋ねる。
「蜂蜜が中に入ったマシュマロだそうですわ。注文書も確認済です」
「~~~~っ!!」
悪魔のような凄まじい形相になり、グレイスはアディエルを睨みつけている。
「……母上…。俺は…俺は陛下の子ではないのですか…?」
血の気の引いた顔で、グレインがそう言うと、ハッとした顔でそちらを向いた。
「信じて、グレインッ!アタクシは間違いなく、陛下との間に貴方を「失礼いたします」」
グレインに側妃が縋り付き、弁明を始めようとした所に、ダニエルの声が割り込んだ。
「…その者は?」
いつの間にか席を外していたダニエルが、一人の男を後ろに連れて現れていた。
「…その顔…」
グレインは男の顔を見るなり、ガクンと床に座り込んだ。
「…このような形で名乗ることをお許しください。私はカーチス領領主。カーティス子爵家のアルベルト・カーティスと申します…」
深々と頭を下げて名乗る男の顔は、グレインが数年歳を取ったような顔の男だった。
「…ど、どうして此処に…」
アルベルトの登場に、グレイスの顔からは血の気が引いていく。
「…カイエン殿下。こちらをお納めいただきたく、お持ちいたしました……」
アルベルトは一冊の手帳らしき物を胸ポケットから取り出し、カイエンへと手渡した。
「…これは?」
「…当家で亡くなった兄に仕えていた執事の物でございます。私が跡を継ぐ際に職を辞しておりましたが、最近事故で亡くなったとの事で、家の者が遺品の整理中に見つけたと慌てて届けてきたのです…。側妃様の恐ろしい計画の全てが書かれていたそれを……」
「ひっ!」
アルベルトの言葉に、グレイスは口を両手で覆い、ガチガチと歯を鳴らし始めた。
「…カーティス子爵。貴方は内容を確認したのですか?」
「はい、王妃陛下。側妃様…、グレイスの計画に知らぬとは言え加担してしまった我が身を、罰していただく為に私はこちらに参ったのです…」
そして、アルベルトは手帳に書かれていた内容を語り出した。
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