第2話 攻略前日
ガーリン鉱山攻略前に、2回ほど2人でご飯を食べた。
といっても店に行ったんじゃなく、ギルドの相談室で私が作ったお弁当を差し出したのだ。
最初は手作り? ってイヤそうな顔をされたけど、食べたら態度が一変した。
「このパン、ウマっ! なんでこんなに柔らかい訳?
この卵のも。
蜂蜜むしプリン? むしってなんだ?」
「蒸すのはね、お湯の蒸気で加熱することだよ。
焦げないし、じっくり火が通るから素材の味を損なわないんだ。
甘くておいしいでしょ?」
ちなみに卵は私が浄化した。
聖焔をごくごく弱くすると、浄化魔法になるのだ。
風呂に入れない攻略中も便利に使っている。
なんで治癒魔法と防御魔法が使えないんだ。
まぁあちらの聖女さまの専売特許を取っちゃダメか。
それにしてもエイモスの弱点は胃袋だったようだ。
いつもクールにしてるけど、やたら食べるなーって思ってたんだよね。
それに私は異世界内政のため、かなりの量のレシピが頭に入っている。
「キラの腕前は店が出せる。いや出そう。
毎日食べたい。
出店の金なら出す!」
「そこは嫁に来いじゃないんだ。
私よく言われるよ」
「俺は子どもが作れないんだ。
女の子は母親になれる奇跡がある。
俺がその機会を奪ってはいけない」
なるほど、だからモテるのに特定の恋人を作らないのか。
「一緒に攻略中なら、毎日食べられるよ」
そう言うと目を輝かせた。
そんなところ、子どもみたいだなぁ。
なんだかかわいい。
ガーリン鉱山攻略のための準備で店に来たのに、エイモスは調理器具ばかり見ている。
「キラ、これ使える?」
「使えるよ」
内政のため、古い調理器具でも使える研究をしていた。
休みは毎日遠くの県立図書館に、走って行ってたからね。
私の体力の基礎にもなっている。
本当は新聞配達したかったんだよね。
昔の本には小学生もしてたって、書いてあったんだ。
でも今は子どもの労働はダメなんだって断られた。
しょうがなかったけど、お小遣い欲しかったな。
「なんか欲しいのある?」
「オーブンかな。
魔力を燃料にできるとなおさらいい」
それはなかったけど、魔獣からとれる魔石を燃料にして使うものがあった。
でもすごい値段がした。
「店の開業のために、買うか?」
「まだ店するって言ってない」
食べ物屋は実は冒険者になる前に考えた。
でもね、向こうのおいしい料理を作ったら、他の人はともかくあの元女子高生聖女様にはバレると思うんだ。
それは芋ずる式に私が聖女だってバレることでもある。
「店は無理だけど、家にあればいつでも美味しい料理が作れるよ」
私が冗談でそう言ったらエイモスは小さめだけど、最新型のオーブンをポンと買った。
全然安くなんてない。
私がこの3年、こっちで稼いだお金を全部合わせても足りない。
「俺は食い物以外、金の使い道がない」
「でも攻略にお金かかるでしょ?」
「装備は全部持ってるし、怪我なんかほとんどしないし、してもすぐ治る。
移動だって全部魔法で済む。
どこでも寝られるから宿屋もいらない。
貯まっていく一方だ」
それにしたって、すごいお金だ。
「それじゃあ店はダメだけど、エイモスが食べたいときにいつでも作ってあげるよ。
あっ、でも常識的な時間にしてね。
寝てる時間にたたきおこすとかはなし」
「了解、よろしく頼む」
そんなわけで攻略前日だけど、エイモスのための食事をせっせと作っている。
彼は気が利くので、材料も全部持ってきてくれた。
「キラに用意させたら、足りないかもしれないから」
確かに多めに作っても、いつもお弁当は私の分まで食べるものね。
普段ならありえない量を作ったが、そこは時間停止の無限収納持ち。
全部持って行けるし、腐ることもない。
熱々のまま保存すれば、食べるときに温め直さなくていい。
ガーリン鉱山は鉱山型のダンジョンだ。
宝石やミスリルなどの希少金属が取れるが、収納持ちがいないと採算が取れない。
私は収納持ちだけれど、物理攻撃が基本のロックゴーレムがうようよしていて、倒すのに苦労する。
誰かと組めばいいんだけど、私の能力を知られれば絶対寄生される。
良ければパーティーメンバーぐらいだけど、悪ければストーカーやヒモ男になるかもしれない。
だけどエイモスは、はっきり言わないけど私が聖女なことを知っている。
能力も圧倒的で、私の聖焔でも倒せるかはわからない。
しかもお金もたくさん持っている上に、ものすごい美形だ。
ベタベタしないが、人当たりも悪くない。
そりゃ女たちが目の色を変えるわけだ。
クッキーやクラッカーを冷ましている間に、自分の装備の再点検して無限収納に入れる。
買ったものもあるけど、安くするために自分で縫ったものだ。
ガーリン鉱山は山なので、時々吹雪くこともあるのだ。
これも異世界内政のために、頑張って習得した。
向こうの私には楽しいことはほとんどなかった。
テレビは祖母が見ているし、スマホは持ってない。
借りてきた本を読んでいると、電気代の無駄と言われて早く寝るしかない。
おかげで早起きして朝日で本を読んでいた。
そんな中電気をつけてていいと言われるものもあった。
裁縫だ。
内政にはファッションや化粧品も絶対いると思ってた。
だから祖母に見つからないように、図書室の中で調べて勉強していた。
服を買えないので、縫えなくてはいけないと手縫いで作る服の本を探した。
でもあんまりなくて、とにかくミシン目のような手縫いができればいいと思った。
それで家にあったあまり布で、パッチワークのバッグを作った。
祖母が欲しいというのであげたら、今度は祖母の友達もほしいと言ってきたのだ。
同じように刺繍したハンカチも、評判がよかった。
私の色の選び方がセンスよかったらしい。
だから裁縫の時間は電気をつけることが許されたのだ。
本当は異世界転生ができるとは信じていなかった。
でもそうなったらきっと楽しいとずっと思っていた。
生まれ変わった先の家族を、私の内政チートで助けるのだ。
その想像が私の心を救っていた。
だからなんでも勉強になると思ってやった。
その中には現実でも役に立つことがたくさんあった。
料理や裁縫は祖母よりもうまかったから、女らしくさせたくなくてもやらせてくれた。
ただあまり布で作ったパッチワークのスカートを古着屋に売られたときは悲しかった。
ロングでウエストゴムだったけど、とてもキレイもできたものだった。
履いたって女っぽくない黒っぽい色で作ったものだったのに。
その後駅ですごくおしゃれなお姉さんが私のスカートを履いているのを見かけた。
何度も見たので気に入ってくれていたようだ。
捨てられずに誰かの役にたっただけ、マシだと思うようにした。
向こうのことはもういい。
明日はとうとう攻略だ。
エイモスとの約束に遅れないよう、早く寝よう。
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