第8話 お姫様のお誘い

「我がパーティは、現在34階層を攻略中である。貴殿の所属していた『蒼天』には敵わないが、これはなかなかの……」


 ライルと別れて30分程、オレはまだ冒険者ギルドの食堂の片隅に居た。


 ライルが消えた後、オレはずっとパーティの勧誘にあっていた。これで何パーティ目だ?もう数えるのも諦めたくらいだ。


 今、オレの前で饒舌に語る男の後ろには、何人もの人間がオレを勧誘する為に列をなして並んでいる。うんざりする光景だ。後何時間かかるんだよ?


「どうであろう?貴殿が我がパーティに加わってくれるのなら、こんなに心強い事は無い。我がパーティに入ってくれるな?」


「悪いがパスで」


 ひょっとしたら、『月影』みたいなビックネームからの誘いもあるかと思って一応聞いているんだが、今のところ初心者パーティや良くて中堅クラスのパーティばっかりだ。これは期待薄かな…。


「うむ。貴殿ならそう言ってくれr……え!?ダメなの!?」


 男が信じられないものを見たような顔をして驚く。なんでそんなに驚くんだよ?

 確かに34階層は今まで聞いた中でも一番攻略が進んでるけど、それでも34だ。最低でも45は欲しいところだ。


「そこをなんとか頼むよ~。な?我らには貴殿の力が要るんだよ~」


 お前口調どうしたんだよ?さっきの威厳ある感じはどこ行ったんだ。急になよなよになったぞ。


「なぁ、考え直してくれよ~。他のメンバーより多めに報酬渡すからさ~」


 しつこい奴だな。しかもさらっと危険な事言うし。そんなことすればパーティの不和の元じゃないか。こいつのパーティは無しだな。


「どけ、次はオレの番だ!」


 男の次に並んでいた奴が言う。コイツかー…。見たところ初心者なんだよな。まだ若いし、鎧がピカピカの新品だ。これも期待できないな。


「うるさいわい!初心者は引っ込んでおれ!」

「なんだと!」


 あー、君達?言い争いなら他所でやってくれないか?


「はぁー…」


 ため息が出るのを禁じ得ない。


 俯いたオレに近づく影があった。なんだ?次の勧誘か?


 視線を上げると、女が4人居た。皆なかなかの美人さんだ。コイツら並んでたっけ?横入りは感心しないな。でも、誰も文句を言わないようだ。先程言い争いをしていた男達も黙っている。それだけの実力者って事か?


 この街の実力者なら大体知ってるはずなんだが……パッと出てこないな。誰だコイツら?でもどっかで見覚えあるような……。


「アレク、ウチのお姫様がお呼びだよ。来な」


 女達はオレのことを知ってるみたいだ。でもオレは彼女達のことを思い出せない。くそぅ、ココまで出てるのに……あと一歩で思い出せない。誰だコイツら?それに、お姫様?誰だよソイツは?


「ああ」


 オレはこの女達に付いて行くことに決めた。このまま此処で勧誘を受けるのに飽きたのだ。それに……。


 オレは女達の立ち姿を見る。自然な立ち姿だが、隙は見当たらない。重心にブレは無く、よく鍛えられていることが分かる。少なくとも今並んでる奴らよりも実力は上だろう。コイツらの話の方が面白そうだ。


 それに、そんな実力のある女達が、お姫様なんて上に呼んでいる奴にも興味が沸いた。


「そういうわけだ。わりぃな、お前ら」


 オレは並んでる奴らに断りを入れると、女達に続いて冒険者ギルドを後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る