第47話 後攻 里見浩史郎

「次は、先輩の番ですよ。準備はいいですか?」


気持ちを切り替えたらしい森野が、にこやかに俺に声を掛けてきた。


「おぅ。」


やる気のない声で、俺は返事をした。

森野に乗せられて、全く面倒臭い事に巻き込まれたものだ。

さっさと終わらせてしまおう。


「では、行きますよ〜!」


森野はタイマーを見ながら、カウントダウンを始めた。


「3…2…1、はい。始めっ。」


俺は銀色の背表紙の文庫本を手にとって森野達三人に見せた。


「俺が紹介するのは、この本だ。

『宇宙英雄伝説』

人類が宇宙に進出した遥か先の未来という設定で、皇帝が治める宇宙帝国と、議会政治で治める

宇宙同盟が両陣営に別れて争うという話だ。

帝国側の天才的な将軍と同盟側の努力家の軍師の戦いが見ごたえがある。


まぁ、架空の歴史小説なんだが、実際の歴史や、現在の政治状況なんかと似たようなシーンも多くあって、そういうのと照らし合わせて読んでみても面白いぞ。」


恭介と宇多川は本を見て少し驚いたような顔をしたが、静かに俺の説明を聞いていた。


森野が、感心したように言った。


「はぁー。さすが先輩の紹介する本ですね。壮大な世界観…。

宇宙で、両陣営に別れて戦うなんて、ス○ーウォーズみたいですね。」


「ああ、両陣営に別れて戦うところは似ているかもな。ただ、それと違うのは超能力みたいな不思議な力はなくって、ただただ現実的に武力と軍略で戦うところと、はっきりどちらが善でどちらが悪かに別れていないところかな。帝国側、同盟側それぞれに正義があり、悪が潜んでいる」


「へぇー、む、難しそう。私なんかが読んで理解できるかな?」


森野は少し引いた態度になった。


「まぁ、政治や戦争の記述はあるけど、帝国側の将軍や、同盟側の軍師がとても魅力的に書かれていて、それぞれの仲間達との人間ドラマも多いから女の子にも面白いんじゃないかな。

それぞれ、信頼のおける仲間達と協力して作戦が成功したときの爽快感は格別だし、

武功をたてて、出世していくにつれて、敵を作ってしまったり、大事なものを失ってしまったりと考えさせられる場面もある。

少しだけど、ロマンスもあるし…。」


「ロマンスも?」


森野は、目を輝かせた。


「食い付きいいな。」


「へへ、ちょっと読みたくなってきちゃいました。」


ピピピピ…!


「あっ!ちょうど五分です。終了です!」


「そ、そうか。」


あっという間の五分間だった。


最初ちょっと紹介しただけで、1分位で終わってしまうかと思っていたのに、森野につられて、何だか思っていたよりベラベラ喋ってしまった。


「あ、二人共、喋らなかったけど、質問とか感想とかよかったです?」


森野は恭介と宇多川に向き直って聞いたが…。


「うーん、そうだね…。」


珍しく歯切れの悪い恭介。


「りんご。これってどっちの本を読みたいかっていう勝負だったのよね?」


「う、うん。まぁ、そのつもりだったけど、

勝ち負けよりもそれぞれの好きな本を読んでもらえるきっかけになればと思って…。夢ちゃん?」


何故かバツの悪そうな顔をしている宇多川に

森野が呼び掛けると宇多川は、手を合わせて頭を下げた。


「ごめん。りんご、私どっちも読んだことある!というか、作者買いしてお家にある。」


「ええー!!」


「ごめーん。俺も読んだことある。巻毛のアンナは姉貴が持ってて、強制的に読まされたし、宇宙英雄伝説は浩史郎のところから勝手に借りて読んでた。」


「東先輩も!?」


恭介も頭を掻いて気まずそうにしていた。


「あぁ、やっぱり恭介に貸してたか。俺の本棚よく漁ってたもんな。もしかしたら読んでたかなとは思ったんだよな。」


小中学生の頃、恭介がよく家に遊びに来ていた事を思い返して言った。


「えっ、えっ、と言うことは二人とも既に読んでいる本をわざわざ紹介してしまったという事?

わ、私は何てアホな事を…。」


森野は、脱力してレジャーシートの上に突っ伏した。






*あとがき*

りんごは“ビブリオバトル”と言っていますが、


本当のビブリオバトルは発表者が5分間本の紹介をした後、発表を聞いた人達と意見交換をするというもので、発表中に意見を言う事はないと思います。


ここでの企画は正式なものではなく、仲間内でビブリオバトルの真似事をしたという意味合いに捉えて頂ければと思います。


もしご不快に思われる方がいたら、すみませんm(__)m

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