第17話 記憶の中の女
あれは確か、中2の夏の日だった。
部活の朝練の後、公園のベンチでへばっていた俺は、あの人に会った。
あの頃、俺は勉強も部活も全てを完璧にこなそうと頑張っていた。
両親も、中1から付き合っていた彼女も、友人も、誰もが俺にそれを期待した。
俺も、それが自分の道だと信じて、成績は常に学年1位を保持者、テニスの部活ではキャプテンを務めた。
だが、勉強とは違い、キャプテンという仕事は自分自身が努力していたらいいというものではなかった。
今日の朝練で、自分と同じ練習メニューの3分の2ぐらいを課しただけで、あまりの厳しさに部員達は音を上げた。
新入生の一人がボソッと不平をもらした。
「誰もがキャプテンみたいに、機械みたいに完璧ってワケにはいかないんですよ?」
「何だよ?機械みたいって…。」
俺は入道雲が浮かぶ夏の空を睨みつけた。
そんなワケないだろ?俺だってしんどい中
なんとかやってんだよ!サボるための言い訳しかしない奴に何が分かるっていうんだ…!
「そこの美少年。青春してるわねー。」
俺は背後から突然話しかけられて、驚いて振り返った。
そこには、日傘を差した20代前半位のワンピース姿の女性が佇んでいた。
白い肌、ウェーブのかかった綺麗な黒髪、白いレースのワンピースは起伏に富んだスタイルを際立たせている。
瓜実顔に紫がかった大きな目が輝き、紅をひいた薄い唇はいたずらっぽい笑みを浮かべている。
こんなに綺麗な女の人を俺は見たことがなかった。
その人を見た瞬間、うだるような暑さも、蝉の声も、全てが消えて、まるで別世界に迷い込んだような気がしていた。
その人は躊躇いもなく、俺に近付いて来て、正面に立つと、更に話しかけて来た。
「若いのにー、眉間に皺を寄せてたら、ハゲちゃうわよ。ちょっと休憩したら?ハイ!」
そう言って、少女のような無邪気な笑顔で、
スポーツドリンクのペットボトルを俺に渡した。
これが俺と桐生よし乃との出会い。
あの時、俺は喉が死ぬほど渇いていた。
彼女が与えてくれた癒やしの水を飽くことなく、求め続けた。
それが毒の水とも知らずに。
『どんなに綺麗で清廉潔白そうな顔をしていても、女は皆同じ。嘘と打算と裏切りにまみれた毒虫を心に飼っている。
覚えていてね?浩史郎…。』
彼女の言葉は今もこの胸に棘のように刺さっている。
*あとがき*
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