イケメン=万能…ではない

東音

第1話 生徒Aの事情

✱まえがき✱

春から冬まで一年で完結する話になります。

主人公たちの成長を見守って頂けるとありがたいです。


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彼女と俺の出会いを振り返って見るならば、確かにそれは運命的なものといってもよかったかもしれない。


例えそれが、双方にとってどんなに好ましからざるものだったとしても。


不俱戴天の仇敵のように強くお互いを意識させ、対立せしめるものだったとしても。




私立 碧亜へきあ学園は中等部から大学まで一貫教育を受けられるそこそこの名門校だった。

そこそこのというのは、他の一貫教育の名門校に比べれば、やや偏差値が低いのと

奨学特待生や芸術、スポーツなど専門分野の特待生などの推薦枠を広めに設けており、

途中入学の生徒も多く、自由な校風として知られているという意味である。


そうは言っても、議員の息子や大会社の娘など、超上流階級約3割、大企業幹部や中小企業の社長など中上流階級約3割、中流階級以下約4割の生徒構成の中で、持つもの、持たざるものの階級同士の差別はもちろん全くないわけではない。


その中でも父親が大手化粧品会社の社長、加えて母親は古くから知られる名家の出、かつこの学園の理事長でもあるともなれば、

息子の俺はこの学園におけるヒエラルキーのトップに位置する者といって過言ではなかった。


更に眉目秀麗、成績優秀、スポーツ万能等

個人の資質にも恵まれ、他の生徒達から憧れの存在であった俺=里見浩史郎(17)は、

友人には事欠かず、女子達からはモテモテと、この高校2年生の春、正にこの世の春を

謳歌していた。


ただ、今日この昼休みに限っては少しばかり困った案件が発生していた。

その為に、気持ちの良い日の光が差し込む学園の中で、180センチの長身を折り曲げて柱の陰に身を潜め、コソコソあたりを窺うというカーストトップのイケメンあらざる行為を余儀なくされているのであった。


困った案件は、中庭のベンチで対峙している二人の女生徒の間で起きているものだった。


「あなた…2年の雪下紗理奈…とおっしゃったかしら?」


ベンチに座っている年下の女生徒に近づいて、長いストレートの髪をかきあげ、高圧的に見下すように絡んでいるのは、3年の

兵藤明日美だった。


「はい、そうですけど…。」


ゆるくカールのかかった長い髪を揺らして

雪下紗理奈は訝しげに首を傾げた。


「もしかして、里見浩史郎さんをまっているのかしら?」


「!」


「待ちぼうけ…かしら?ふふっ。あなた振られたんじゃない?」


「あなたは誰なんですか?」


不快感を露わにして雪下紗理奈が問いかけた。


「私は里見浩史郎さんの恋人、兵藤明日美よ。」


そう言って兵藤明日美は蠱惑的な笑みを浮かべた。


「?! そんな筈ありません。浩史郎くんの彼女は私です。今日だって一緒にお昼を食べる約束をしていたんです。」


「でも、来ないじゃない。友達から中庭で2年の女子が浩くんに言い寄ってるって聞いたから、まさかと思って来てみれば!浩くんって誰にでも優しいから、あなた勘違いしたんじゃない?残念だったわね。浩くんは放課後私と過ごす約束をしているのよ。」


「それこそ、何かの勘違いなんじゃないですか?」


雪下紗理奈はふっと嘲るように笑った。


「何ですって?」


ますますヒートアップしていく女同士の諍いに俺は頭を抱えた。

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