考察(退屈かもしれないがまあ必要かな)

 一時間ほど密林の中を歩くと、さらにこの星の環境について分かってきた。

「生物密度も地球の熱帯雨林に近いですね。気温が低いだけです。恒星のエネルギー照射量も地球の九十八.八七パーセントと極めて近い。大気の構成も地球のそれと九十三パーセント一致。二酸化炭素の濃度は低く、酸素濃度は若干高いです。これは植物の繁茂範囲が広いからと推測されます。結論としては、即時移住可能な、特級物件ですね」

 エレクシアYM10がロボットらしく淡々と解析結果を読み上げる。人間にとって良好な環境を生み出すことが目的の一つであるメイトギアは、人間の生存に必要な情報について分析する機能があるのだ。この辺りは余程の廉価版でもない限り普通についてる機能である。こいつには付いてないが、一流メーカーの上位グレードには、食品の毒見をする機能を持つタイプもある。

「特級物件かよ。やれやれ。夢色星団の陰に隠れてこんなお宝が眠ってたとはね」

 <夢色星団>とは、そのファンシーな名前に反して、重力異常、空間異常、電磁波異常の、まさに<宇宙の地獄>とも言うべき危険な星団だった。なので、リスクが大きすぎて調査が進んでいなかったのだ。記録によると、最初期に調査隊が遭難して以来、それを捜索するためのロボットを送り込んでも殆どが未帰還で、実質何も分かっていない。そこに、大博打を打って挑んだ訳だが、せっかくの超一級のお宝を見付けても、帰れない連絡も取れないでは話にならない。空間異常の所為で超空間通信も届かない。電磁波異常の所為で一縷の望みをかけた通常通信も届かないという星域だし。

 まあそのおかげで、千年以上前から自殺の名所としても知られてたんだけどな。追い詰められた人間が逃げ込む先としても知られてる。その末路がどうなったかは、誰も知らない。

「あ…でも待てよ? と言うことはもしかして…?」

 そこまで考えて、俺の頭をある発想がよぎった。俺の前で枝にぶら下がりながらこっちを見てるひそかに視線を移し、

「お前、夢色星団に逃げ込んだ人間の成れの果てって可能性もあるな…」

 そうだった。夢色星団に逃げ込んで俺と同じようにここに不時着した人間がここの環境に適応してしまって生まれたのがひそかかも知れないということだ。ただそれも、たかだか千年やそこらでここまで変化するかと言われると心許ない。今の人間の寿命からしたら精々六世代とか七世代前の話の筈だ。老化抑制処置を受けている初代以外の平均寿命を、この環境を考慮に入れて五十年と見積もっても、三十世代に届くか届かないだろう。

 さすがにその程度じゃあねえ。


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