第9話 ショッピング
「よく来たね。三人とも。」
エミが三人の前で言った。
「さて、列車爆破事件の解決以降、冬狼殺害失敗で一瞬沈みかけていたGCAの信頼度は上がっていき、党からそれなりの予算をもらえるようになった。」
特に事件が起きているわけではなさそうだ、ということが分かった。
エミが何を言ってくるかわからない三人は身構える。
「と、言うことで、月狼、ライ、二人には買い物に行ってきてもらおう♪」
「はああああああああああああああああああああああ?!」
月狼は呆れて叫んだ。
「何だその公私混同甚だしい任務は!」
「いやね、確かに君たちは十分強い能力を持っているよ?
でもね、色々調達しなきゃいけないものも多いじゃん。
服とか食べ物とか、武器とかさ。
上は金以外を支給してくれないから自分で調達するしかないわけだよ。」
「そっちで買ってきてくださいよ。」
「こっちもいろいろと忙しいんだよ。
グレンを見つけたとはいえ、冬狼がどこにいるか、まだわからないしね。」
エミは椅子に座ってパソコンを見る。
グレンによれば、冬狼たちは全員が集まる特定の拠点を持っているわけではなく、普段はお互いに連絡を取り合いながらあまり目立たない場所に潜伏しているらしい。
全員がガスマスクをつけているわけではなく、中にはアイマスクや仮面の様に目元を深く覆ってうつむいている状態では気づきにくいような格好で外出している人もいるので、グレンのように監視カメラを使った特定も難しい。
「つまりグレンが見つかったのはこいつがガスマスクをかぶったアホだったからってことか。」
「だって、実用性もあるし、かっこいいじゃん。」
「それで捕まったら元も子もないだろ。」
「へへっ。」
グレンが笑った。
「まあそういうことで、私は戦えない代わりにすごく忙しいんだ。
ということで場所と商品はメールで送ったから買ってきてくれたまえ。」
「…わかりました、それじゃ、買いに行きましょう。」
「ちょ、ちょっとー!」
相変わらずすぐに荷物をまとめて出ていくライについていく月狼だった。
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ここは駅から5分くらいのところにあるショッピングモールだ。
生活で必要なものは大体ここで買える。
「…と、言うことで買うものは、食料と、武器と、それから衣類ですね。」
「ああ、そうだね。まず何からにする?」
「まずは衣類ですね。食料は最初に買うとほかの商品によって潰れたり腐ったりするかもしれません。」
「そんな分単位で食料のこと考えるのかよ…。」
そんなわけでまずはアパレルストアに行った。
「自由に見ててください。私はそんなバカなファッションなんぞに興味はないので。」
「分かった。」
月狼は近くを見る。
周りにはレザーコートなど、月狼が好きなデザインの服が広がっている。
「服、かあ。
ま、これで。」
とりあえずいくつか気に入った服を購入してみた。
「まだ暑いから早い気もするけど。
よし、レジでの生産も済んだところだし、ライのところに行くか。」
月狼はライがさっきまでいたところに行った。
さっきファッションに興味はないと言っていたので、おそらくずっとそこで待っている
…はずだった。
「え!?ライがいない!?」
元の居場所にはライがいなかったのだ。
「まさか犯罪者を見つけて尾行したいるか、あるいは…。」
誘拐された、という最悪の展開もあり得る。
ショップの中で右往左往していると、
「わっ!月狼!」
ライがハンガーにかかったズボンを持って立っていた。
「え、ライ?なんで…。」
「これはっ!違うんです!
なんか待っているのが暇だから周りをうろついていただけで、決して『この服いいなあ、買おうかなあ』なんて思っていたわけでは決して!」
明らかに挙動不審だ。
いつもは無感情で冷静なライが慌てているところを見ると、ついかわいいと思ってしまう。
(いや僕はいったい何を思っているんだ?あの無感情女にそんな感情を抱くところなんてないはずなのにっ。
てか、ファッションに興味はないって言ってたけど、バリバリあるじゃないかっ!)
様々な感情が月狼の頭の中を駆け巡る。
「はあ。じゃあいいよ。
僕が勝手に買ってあげたことにするから。
その代わり、自分のお金で買ってよ。」
「いや、欲しいわけでは決してっ。」
「別にいいでしょ。仕事柄、いつ死ぬかもわからないんだから、短い人生を楽しまなきゃ。」
「ちょっとっ。」
月狼は能力を発動してライから無理やり財布を盗み出した。
そして札束を引き抜き、レジへと向かった。
「…待ってください。」
「何?」
「もしかしたら、サイズとか合わないかもしれないので、動きにくいと困るので、少し試着してきます!」
ライはそういって大量の衣類を抱えて試着室に入っていった。
「ふう。
僕も試着していこうかな。」
月狼は買った服をとりあえず試着する。
月狼が買ったのは3つ。
まず、薄手のロングコート。
「やっぱこういうのってかっこいいよな。」
そして、指ぬきグローブ。
刀をずっと握っていると手のひらから汗が染みだし、降った刀が手からすっぽ抜けることもある。
それを防止するためと、単純にかっこいいから買った。
そしてゴーグル。
弾丸を防止することはできないが、目元への砂の侵入を防ぐことができるなど、戦闘の際はかなり役に立つ。
「まあ、僕はこんなものでいいかな。
ライは何を選んだんだろ。」
月狼は買ったものを着てライの試着室の前に立った。
(ファッションには興味がないってことは、そう言うのにうとそうだもんな。
まあ、恋人じゃないんだし、服装にとやかく言うつもりはないけど。)
「準備できました。」
そういってライは試着室の扉を開けた。
「うわっ!」
月狼の体から一瞬すべての力が抜けた。
「大丈夫ですか?」
ライが月狼をのぞき込む。
体にぴったりフィットした青いカーディガン。
その下には白いシャツがのぞいている。
下半身は膝の3分の1までしか伸びていないミニスカートの下に、黒いタイツを履いている。
肌の露出こそ少ないが、女性経験がほとんどない思春期男子の何かを刺激するには十分すぎる格好だった。
「まあ、サイズとかは特に問題ない、かな。」
どんどんろれつが回らなくなってくる。
「じゃあ、買おう。」
二人は元の服装に着替えてレジへと向かった。
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「はあ。予算が無駄になってしまいました。」
つい衝動買いしてしまった服を見てライはつぶやいた。
「まあ、いいじゃん。」
二人はショッピングモールの地下へ降りた。
地下には銃砲店があるのだ。
共和国では民間人の銃の所持及び携帯は狩猟など特別な場合を除いて原則禁止されているが、警察や軍人は所持はもちろん、購入も許可されているので、そういった人物をターゲットとした軍用銃砲店がショッピングモールの地下に置かれているのだ。
商品の中には無反動砲のように、明らかに対人用ではない破壊兵器もある。
二人はその中に入った。
「すみませーん。」
「おお、お客さん。ようこそ武器屋へ!
銃や砲のような火器以外にも、剣や弓のような中世武器も売ってますよお!」
やたらハイテンションな店長が出迎えた。
「なんだよその店。中西武器とか売れ行きあるの?」
「並べてから一品も売れてません!完全なる私の趣味です!」
二人は様々な兵器を見てみた。
実戦ではライの能力で好きなだけ武器を取り寄せることができるが、必ず武器が近くにないと取り寄せることができないため、できるだけ多くの強力な武器を購入したい。
「じゃあ、僕は店長に交渉したいことがあるから、先買っておいて。」
「分かりました。」
ライは武器の詮索を始めた。
「店長。」
「へい、なんでしょう!」
店長が大声で答えた。
「ここ、剣も売ってあるって言ってたね。」
「はい。」
「それって、どこで作ってるの?」
「そういうのは私の完全なる趣味なので、特注の製造店とかに作らせてますね。」
「ってことはさ、既存の刀の改造とかって請け負ってたりする?」
「改造、ですか?」
店長が目をキラキラさせながら言った。
「ああ。
今は持ってないけど、ある一振りの刀があってね。
それが手に入り次第、それを電剣に改造してもらいたい。」
「電剣、ですか。」
電剣とは、電流を流すことで、敵の体を電気メスの要領で溶断できる剣のことである。
ただでさえ高い威力を持つ日本刀を改造すれば、原子間結合でただでさえ堅い刃をさらに頑強にすることができ、熱による溶断効果も加わって恐ろしいほどの威力を出すことができる。
さらに相手の体を焼くという方式をとることで出血をある程度抑え、血の付着による切れ味の劣化を防ぐこともできるなど、様々なメリットがある。
「既存武器の改造ともなればオンリーワンになるのでお値段はそれなりにかさみますが、最低で2日もあれば余裕でしょう。」
「本当ですか?」
「うちの特注の武器職人たちをなめないでいただきたい。」
「じゃあ、よろしく。」
「承知しましたぜ、旦那。」
「じゃあとりあえず、それまではここの武器を使うことにするよ。」
月狼は剣などが売っているコーナーに行った。
「じゃあ僕が選ぶのは、こいつかな。」
月狼は一振りの電動日本刀を取った。
そしてそれを抜刀してみる。
キラリンッ
白金色の刃が光る。
スイッチを起動してみた。
ジジジッ
音を立てて刀身が淡いオレンジ色を帯びる。
「おお…。」
月狼は感嘆して笑みを浮かた。
「しばらくはこれを使っていくか。」
月狼は刀を弾帯に差し込んだ。
一方そのころ、ライは様々な武器を詮索していた。
武器の引き出しは多いほうが戦闘には有利だし、何よりも銃撃が一切効かないサマに対抗するためには、大量の弾幕を張って再生を少しでも遅らせるしか方法がない。
そもそも、サマの再生能力自体が未知数だ。
心臓や脳など、生命活動をつかさどる臓器が破壊されればそこで再生が止まるのか、もしくは肉片を微塵も残さず爆散させてしまうしか方法はないのか、最悪、彼女の再生を止めること自体が不可能なのかも不明だ。
サマはサブマシンガンを手に取った。
「へえ。口径が普通のサブマシンガンより大きいんですね。」
手に取ったのは、H&K MP7サブマシンガン。
厳密には貫通力を重視したPDW(個人防衛火器)という武器で、プレートを使用しないケブラー製程度の防弾チョッキなら貫通できる威力を持っている。
にもかかわらず全長が拳銃並みに短く、しかも軽量である。
これを三挺買ってみた。
今使っているベレッタM12より、はるかに命中精度が高く、使いやすい。
「これでサマの胸元を覆う防弾スポーツブラを貫通することができるでしょう。
心臓の対策はこれで完璧です。
後は、最終手段を。」
サマは無反動砲のコーナーに行った。
厳密に言えば無反動砲ではなく、ロケットランチャーに分類される武器もここで売っている。
RPG7、パンツァーファウスト3など様々な武器が並ぶ中、ライが真っ先に手を取ったのは
「…無反動砲、ですか。」
カールグスタフM4無反動砲。
6.8kgとほかの武器と比べれば軽いため少女でも余裕があれば取り扱うことができ、多種多様な弾を使うこともできる。
さらに使い捨てでないため、弾さえあれば何発でも発射できるところも大きな利点である。
戦車を破壊することは難しいが、人体に直撃すれば木っ端みじんに吹き飛ばすことができるだろう。
「これで十分でしょう。」
ライはカールグスタフ無反動砲を台車付きカートに入れた。
「必要なものはすべてそろいました。」
「よし、これで全部だ店長。」
「普段は買っていただけない私の趣味の品まで買ってくださるなんて!
本当に感謝してもしきれません。
あなたなら十分使いこなすことができるでしょう。」
店長がにっとほほ笑んで意味深なことを告げた。
「あなたなら?」
「はい。あなたの戦闘力はあまり存じ上げませんが、見ただけでなんとなくわかります。
あなたは迷っている。
力の意味、使い方に。
力の使い方はあなた自身が見つけていくもの。
そして力にのまれず、逆に力の意味を知った時。
あなたは誰よりも強く、そして誰よりも慈悲深い兵士となる。
その時、武器は真の意味であなたを選び、心のままに動くでしょう。」
何を言っているかはわからない。
「それは無理な話だよ。
僕はもう誰も傷つけないと誓った。
力なんて無いほうが幸せだよ。」
「はははははっ!」
店長は笑った。
「まあ、私はただの武器屋。
戦争が好きなわけではありませんし、前線に立ったこともありません。
ただ誰よりも武器を愛す者。
あなたの仰せのままに、武器を売るだけです。」
そういうと店長はカウンターの奥へと消えていった。
「癖の強い、変な店長だな。」
月狼はつぶやいた。
二人はその場を後にし、食料店へと向かった。
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