第78話 ある国家の生誕
どどどどどど、どうしようっ!?
朝。
おれはベッドの中で頭を抱えて震えていた。
何をどうしたのかまったく覚えてないんだけど、気付いた時にはやたら豪華なベッドの上に転がっていた。
ルルちゃん、柚希ちゃんも一緒に眠っており、何故か知らないけど次期勇者のリアーヌちゃんもいた。
「……起きたか」
「あ、く、クリス!?」
いきなり開いたドアにびくんと身体が跳ねたけれど、そこから顔を出したのはきちんと服装を整えたクリスであった。
「……何が起きたか分かっていない顔だ」
「め、面目ない」
水差しと鋳物のカップを持ってきてくれたクリスが言うには、昨夜、魔力枯渇を起こしかけた俺は暴走した。
下手に意識が残っていたのが良くなかったらしく、皆と合流したところで魔力回復のためにえっちなことをしようとしたらしい。
当然ながら、えっちなことをするには相手がいる。
そしてさらに当然ながら、カチコミかけた直後なので皆が
なので、おれは《奔放な獣》を発動させて皆を強制的に
クリスや柚希ちゃんが薄れゆく理性の中で必死に防音で鍵を閉められる部屋へとおれを誘導し、なぜか環ちゃんがリアーナちゃんを引っ張ってきて、最後に結界でおれの《奔放な獣》を防いでいた葵くんにドアの外での警備を任せたとのこと。
そこから先はクリスも覚えていないとのことだけれど、まぁだいたい想像つく。
とてもじゃないけれど、口にはできないようなことをしたりされたりして、穴の開いたバケツみたいな勢いで魔力を貪ったんだろう。
いつもの省エネなロリモードに戻っているけれど、魔力は体感ではかなりたっぷりある。
充電満タンって感じでもう欠片も入らな……欠片も……いやでも目の前に無防備な柚希ちゃんが寝てたらそれはまた別腹だよね?
基本的におれより柚希ちゃんの方が早起きだし、こういうシチュエーションは貴重な気がするからちょっとだけ。
そう、先っちょだけ! 先っちょだけだから!
「あまね」
「っひゃい!?」
クリスに止められた。
怒ってるかと思ってちょっとビビりながら様子を窺うけれど、クリスの視線はおれに向いてなかった。
「アレ、どうする?」
クリスが見ていたのは環ちゃんがどこかから引っ張ってきたらしい次期勇者のリアーナちゃんであった。ベッドの端っこで猫みたいに丸まって眠っているけれど、この状況で手を出してないなんてことはないよね……ないよなぁ。
なんとなくだけど色々したのを覚えてる気がするもん。初心な反応が可愛くてたくさんサービスしてあげたような気もする。最後の方は泣きながら謝ってたような感じもするし、白目を剥いて痙攣してた気もしないでもない。
……た、環ちゃん! 悪いのは環ちゃんだからっ!
「……見なかったことにする、とか?」
「もう遅いな」
クリスはハァ、と溜息を吐いて首を横に振った。同時にギシリとベッドが軋む音がしたので、急いでそちらを見ると、
「おはようございます、クリスおねえさま、あまねおねえさま」
眠たそうな目にハートを浮かべたリアーナちゃんがいた。
「えっ……これってもしかして《魅了の――」
「
《魅了の紫瞳》の可能性を考えたけれど、即座に否定される。
いやでもこれが素ってことは、もしかして解除不可……?
「改めましてリアーナと申します。愚かにもおねえさま方に刃を向けたにも関わらず、おねえさま方に可愛がっていただき、目が覚めました」
リアーナちゃんは猫を思わせるような滑らかな動きでおれとクリスへと近づいていき、それぞれの手を取って口づけた。
「これからもご寵愛を賜れるように精いっぱい奉仕致しますわ。どうぞ、リアと呼び捨てになさってくださいまし」
「よしなに」
あっけに取られて何も言えないおれをよそに、クリスはリアーナちゃん――リアをくしゃりと撫でる。それで嬉しそうにしているのだからきっと本人は幸せなんだろうけども、うーん。
現実逃避がてら環ちゃんを一度本気で
クリスに《清潔》を掛けてもらって色んな液体で汚れた身体を清めると、同じく《清潔》を掛けてもらった服を着ていく。
おれもすっぽんぽんだったので一緒に支度をした。
「あまね、ご飯」
「あ、うん」
魔道具に保管していた食パンを出すと、クリスの火魔法でカリッカリになるまで炙ってもらう。ジャムやバターの類を出せば手抜き朝食の完成だ。
おれは魔力たっぷりだしいらないのでパス。
ルルちゃんと柚希ちゃんはバターをささっと塗って、クリスはいつも通りにチーズを掛けて追加で炙っていた。その横で目を輝かせるリアの分にも、
「リアも食べるか?」
「ち、チーズ……チーズが、こんなに!? よろしいんですか……?」
チーズが異世界でどんだけ高価なのかが何となく伝わってくる光景であった。
この世界だと中毒性があるチーズが蔓延してるとか、そういうオチはないよね?
それとも、勇者になれる人間はみんなチーズ大好きとか。
ちなみにリアはレース紐でパステルピンクの髪の毛をツインテールに結わえている。幼さの残る顔立ちと相まって非常に可愛らしいけれど、記憶にないはずの昨夜の光景が脳裏をよぎる。
「アッ、こら、貴女っ、
「待って、本当に待って、もう駄目なのっ!」
「謝ります、謝りますからぁ! ごめんなさい、ごめんなさ、っひゃぁっ――」
「………………………」
うん、やめよう。
記憶の端でおれと一緒にクリスと環ちゃんが何かしてた気がするけど、きっと思い出さない方が良いことだ。
これ本当にどうするのが正解なんだ……?
「ええと、回復魔法とか?」
「? どこも怪我はしてないぞ」
クリスの断言が、おれを絶望の淵に叩き込む。
そうだ。
やっぱりここは環ちゃんにいいアイデアを――ああうん。環ちゃんは駄目だ。何だかんだ理由をつけてリアをこっちに引きずり込む未来しかみえない。というか引きずり込んだ結果が現状だ。
「ってそういえば環ちゃんは?」
おれの問いに、クリスはついっと目を逸らした。
「……何かやらかしたの?」
「やらかしたというか、やらかしてるというか」
「と、止めなきゃっ」
絶対碌でもないことになるに決まってる、と脱兎のごとく駆け出す。ドアの外はすっごい大きな廊下になっていて、少し先にはおれたちが昨日いたであろうベランダ的な場所も見える。
防音とかそういうのが魔法で施されていたのか、廊下に出た瞬間にたくさんの人の気配と騒めきが聞こえる。
そして。
「あ・ま・ね! あ・ま・ね!」
『なんと素晴らしい信仰の力でしょうか……! この祈りはきっと、いいえ、必ず我らが女神あまね様にも届くことでしょう!』
「あ・ま・ね! あ・ま・ね!」
『皆さんに回復魔法の慈雨を降らせた女神様はお疲れです。もう少し、そう、もう少しだけ皆様の信仰が必要です。必ず再臨してくださいますので、心から祈りましょう……!』
民衆からは大地を揺らさんばかりの
「た、環ちゃんっ!?」
急いでベランダまで駆け寄って止めようとするが、それはつまりおれの姿が民衆へと認知されることであり、
「――――――――――――――――――――」
歓声が。
感情が。
重なり過ぎて爆発と間違いそうなほどの声がその場を満たしていた。
『皆さんの信仰が届きましたっ! 女神あまね様の降臨です!』
すぐ横、真っ青な顔をした環ちゃんがマイクを握っている。
空いたもう片方の手でコピー用紙らしき何かをぺらぺらと示していたのでそれをキャッチ。そこには女の子らしい丸みのある文字で、
『ごめんなさいあまねさん。宗教国家で根幹となる信仰がゆらいだときの暴走の大きさを見誤ってました。本気で悩んで考えたんですけど、私が思い付いた、できる限り人死にが少ない解決法は以下の通りです。
最悪、転移で逃げても良いかも知れないとは思いましたが、あまねさんは絶対に他の人を見捨てられないと思うので必死で考えました。――』
とんでもないことが記されていた。
どうやら昨日焚きつけた民衆たちが環ちゃんの予想を超えるレベルで暴走しそうになっているのを必死で抑え込んでいるらしい。
熱狂。
まさに狂っているとしか思えない
いや確かに日本ってあんまり信仰心のない人多いって聞くし、おれも特定の宗教に入ってるわけじゃないからイメージしにくいけどさ。
まさかここまでだとは思わなかった。
ああいや、でも昔、学校で習った革命とか一揆とかってとんでもなかったって聞いた覚えもあるような無いような。
どこか他人事のように感じる目の前の現実を直視できずに現実逃避していると、環ちゃんがおれに縋るような視線を向けていることに気付いた。
――しょうがない。
おれも腹を括るしかない。
脚が震えるのを必死で堪えながら翼をはためかせて空へと昇っていく。
「《魅了の紫瞳》」
民衆の熱狂は最高潮。
しかし、おれが空中に浮かぶのを見た人々は少しずつ口数が減っていく。
そして、五分としないうちに痛いほどの静寂が場を支配した。数千、下手すれば万を超える視線が一つ残らずおれへと向けられているのを感じる。
視線だけでビリビリと肌が灼けるような錯覚に陥りながらも、ぐっとお腹に力を入れて耐える。
『それでは――』
ああもう。
なんでこんなことになっちゃうんだよ……!
『――あまね真教国の樹立をここに宣言しますッ!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます