オマケ

 夢を見た。

 夢を見た。


 見覚えのあるような、無いような、そんな女の子が目の前にいて彼の手をぐいぐい引っ張っていく。


 「あそぼうよ」


 女の子が無邪気に言ってくる。

 

 「なんで?」


 彼は訊ねた。

 そんな彼に、女の子はクスクス笑う。

 クスクス。

 ケタケタ。

 ケラケラと笑う。

 嘲笑わらう。


 「君がわたしを誘ったんだよ?」


 女の子は笑いながらそんなことを口にした。


 「おぼえてない?

 じゃあ、こうすれば思い出すかな?」


 そう言ったかと思うと、女の子はドンっと彼の体を押した。

 それだけだった。

 たった、それだけで彼の体はあっさりと仰向けに倒れる。

 そして、頭に衝撃。

 なにか硬いものが頭に当たったのだ。

 体が動かなくなる。

 死ぬ。

 そう彼は直感した。

 途端に、言いようのない恐怖が湧き上がった。

 しかし、体は動かない。

 そんな彼を女の子は、嘲笑いながら見下ろしてくる。


 「ねぇ、思い出した?」


 その顔が、彼の顔に変わる。

 女の子の顔が、幼かった頃の彼の顔に変わる。


 彼は、思い出した。

 ちょっと揶揄うつもりで、仲間と一緒になって呼び出してイジって遊んだ女の子。

 自殺したとされた、女の子。


 「あ、そっか、自殺扱いにしたんだよね?

 君が、君たちがわたしを殺したのにね?」


 彼の顔がまた女の子に変わる。

 女の子は、楽しそうに言いつつ手をパンパンと叩いた。

 すると、行方不明になっていた彼の友人たちが恐怖に引きつった顔でどこからともなく現れた。


 「ごめんなさい」


 「許してくれ」


 「悪かった、だから、だから!!」


 友人たちはそう女の子に懇願している。

 女の子は、いい気味だと笑いながら友人たちへ言った。


 「許されたい? 救われたい? 本当に悪いと思ってる??

 なら、ほら、あの子を私にしたように遊んであげて?

 そしたら、天国にいけるよ?」


 友人たちの瞳に希望と狂気の光が宿る。

 そして彼は、友人たちに暴行される。

 痛い痛いと泣き叫ぶ声が響く。

 でも、誰も助けてくれない。

 だって、全員が救われたいから。

 天国に行きたいから。

 正直、女の子に許されたいなんて思っていないから。

 醜い、そして滑稽な光景を眺めながら、女の子はほくそ笑む。


 だって、誰も天国になんて行けないのだ。

 生前の罪が表沙汰にされず、無罪放免になったからといって死後もそれが適用されるなんてこと、無いのだ。

 だって、人の命を遊びで奪ったのだから。

 死後も、こうして奪うのだから。

 そんな魂が救われるなんてこと、無いのだ。


 女の子は、彼らを許すことなんてない。

 死後もずっと、許せなかった。

 一番、許せなかったのは、彼らが自分たちの罪を忘れて、女の子が死んだ場所に遊びに来たことだ。

 楽しそうに笑いながら、人を殺したことをすっかり忘れて人生を謳歌していることに腹が立ったのだ。

 だから、決めたのだ。

 自分の手で地獄に落とすと、そう決めたのだ。


 彼らを解放した時。

 救われたと、天国に行けると思った瞬間、地獄に叩き落とされる時の彼らの顔を想像するだけで、女の子に笑みが溢れた。


 友人たちと違い、彼を体ごとこちら側に連れ去ることは残念ながら出来なかった。

 魂だけなので、こちら側で惨殺されても現実では心臓発作となるが、まぁ、仕方ないかなと女の子は妥協した。

 だって、地獄に落とすのが目的なのだから。

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