こんどはピネー侯爵家が後ろ盾


「まあ、バンベルク大主教殿は、聖女様の安全を第一にと書かれておられる、そして聖女様は神の御使いともいわれておられる」

「教皇猊下はお苦しいであろうな……聖女様を認定しての第2の聖女様、しかも神の御使いの聖女様が現れたのだから……」


「とにかくエマ様、今後どうなさりたいのですかな?」

「のんびりと3人で、お気楽なパン屋でもしようかなと考えています、面倒ごとはご免ですから」


「なるほど……わかりました……」


「お兄様、エマ様はライネーリ辺境伯家ご用達仕出しパン屋という事を、ご承諾されておられます」

「ライネーリ辺境伯はこのことはご存じなのか?」

「言えないではありませんか!」


「では後ろ盾は、我がピネー侯爵家がするしかなかろうな」

「それは……」

「ジョスリーヌ、えらくこだわっておるが、何かほかにあるのかな?」


「エマ様は料理がお上手で……時々、お店が開店した折は、私のサロンの場所として……」


「宰相様、私は店内にジョスリーヌ様の為の特別ルームを作って、そこで料理を提供することに同意しております」


「そうですか……ではこう致しませんか?我がピネー侯爵家が後ろ盾となる、ピネー侯爵家ご用達仕出しパン屋と銘打って、その中にライネーリ辺境伯夫人専用の、『ジョスリーヌ・サロン』を認める」

「ジョスリーヌは私の妹、我儘な妹に甘い兄が認めては、多少笑われるだけで済む話」


「私はお兄様のご提案に同意しますが、エマ様はどうされますか?」

「構いませんよ、そもそも私には選択の余地はないのですから」


「ありがとうございます、悪いようには致しませんが、ただ不愉快な人の噂が流れるかもしれません、ご承知くださりますか?」


「不愉快な人の噂?」


「ピネー侯爵家が後ろ盾という以上、馬鹿は出ませんが、エマ様が私の愛人、そのような噂が流れるかと思われます」


「なるほど……確かにそうなるでしょうね……まあ、いいでしょう、それが一番矛盾のない話ですから……しかし、侯爵様は構わないのですか?奥様あたりがお怒りにはなられませんか?」

「妻?愛人はおりますが、妻はおりませんよ」


 えっ、愛人がいるの?私、その中の一人なの?


「念のために言わせてもらいますが、私は愛人にはなりませんので、聞かれたら否定させていただきますよ」

「当然でしょう」


「では、あとは皆様に任せますので、よろしくお願いします」

「お2人を信頼いたします、だからお伝えいたしますが、私は聖女ではありません、どうやらその上の大聖女のようなのです」


「なんとなくそうではないかと思っていました、私はステータスの加護まで見えるのですが、『エンサイクルペディア所持者』とか『危険予知』とか、初見の物が見受けられます」

「ベネット王国内では、ステータスの加護まで見える者は滅多にいません」


 クレマンさん、高位の聖職者なの?

 

「ピネー侯爵家は先祖が聖職者の出で、魔力が多いのですよ」


 ということは、『聖女』というのは見えるのですね……


「普通、加護まで見えるのは大主教クラス、ベネット王国内では大主教はいないのですよ」


「さて、今日の仕事はエマ様の件で終わり、どうです、夕餉などご一緒に?」


「お兄様、実はエマ様のパン屋の試供品をいただいております、食べてみませんか?」

 例の『ランチ●●●』を差し出したのです。


「ほう、綺麗な絵だが、これはパンなのか?」

 ジョスリーヌ様が、わがことのように説明しています。


「3日もつのか?1袋が6ランド?白パンでか?」


「エマ様は色々なパンを取り寄せられるのよ♪」


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