守りたい笑顔
店内に最後まで残ったのは、僕、藍里、愛唯、ミィコ、雪音さん。
「ほら、アンタたちもはやく帰りなさいよ! 明日の作戦、遅刻したら承知しないからね!」
アンリさんに怒られてしまった。
「お姉、そんな言い方しなくたっていいじゃないの、もう! さ、真っ暗にならないうちにお帰りなさいな」
マユさんは、ナヨナヨしているけど優しい物言いで僕らを心配してくれている。
「とにかく、アンタたち、気を付けて帰るんだよ」
そういって、アンリさんは僕らを店の外まで見送ってくれたのだ。
――僕ら5人、とぼとぼと駅に向かって歩く。
さっきまで、あれほど白羽 ミュウにべったりだったミィコが、今では僕にくっついてきている。銀太とやり合っているとき、ミィコに対して冷たく接してしまったことで、僕はミィコに嫌われたのではないかと不安に思っていたが、なんだかそうでもないらしい。
「あのさ、ミィコ、肉球ぷにぷにロッド、ボロボロにしちゃってごめん」
僕は、あの時に言えなかった言葉を、ちゃんとミィコに伝えた。
「あの時のサトリ、本当に怖かったです……でも、今のサトリは、いつものサトリです! 肉球ぷにぷにロッドを壊した責任は、後でちゃんとサトリが取ってください!」
ミィコは、いつもの人を蔑んだような目つきで僕にそう言ってから、その表情がすぐに笑顔へと変わり、僕の腕をぎゅっと掴んだ。
「は、はい……了解しました」
僕は、ミィコからの強い圧力に屈した。
僕とミィコ、そして雪音さん。少し離れて藍里と愛唯。あの二人、どんな話をしているのだろう? 藍里の事情が分かった今、なんだか、藍里の並々ならぬ苦労を考えてしまって、僕は涙が出てきそうになる。藍里……ご迷惑おかけしています。
後ろの方をちらちらと気にしながらも歩く、僕。そんな僕とミィコが先頭に立って、そのすぐ後ろに雪音さんだ。すると、後ろを気にしていた僕は、なんとなく雪音さんと目が合ってしまった。
「さとりちゃん、本当に災難だったね。私、気付いちゃった。あの能力を使ったさとりくんは、さとりちゃんであっても、さとりちゃんではないってこと。さとりちゃんも、気付いているんでしょう?」
雪音さんにそう言われて、僕は
「そ、それは――」
「さとりちゃん、それ以上は言わなくても大丈夫。なんとなく、
雪音さんは察しがいい。雪音さんほど勘のいい人は、みんなから嫌われそうだ。
「はい――」
僕は元気なく返事をする。
「うん……みんな、色々な事情があるんだと思う。さとりちゃんも、藍里ちゃんも。私には、そんなものないけどね! でも、私は、そういうのに、すごく寛容だから。それに不可解なものほど興味をそそられるものね!」
雪音さんは、雪音さんなりに僕らの理解者なんだ。なんだか、心強い。
「はい!」
僕は、雪音さんの言葉で、ちょっとだけ元気になった。
――のそのそと歩いていた僕らは、いつの間にか駅に到着していた。
「私、この後に大学のサークルメンバーとの約束があるから、ここで抜けるね。ごめんだけど、ミィコのこと、お願いします! あ、あとあと、明日、面白いもの用意しておくから楽しみにしていてね! それじゃ、またね~」
すると、雪音さんは、僕たちにそう告げて、颯爽とその場を後にした。面白いものってなんだろう?
「あ、ユキネ! もう……。ちなみに、ユキネのサークルは、『オカルト研』らしいです。あやしぃ、ですよね」
ミィコは、雪音さんのサークルのことを、怪しそうに話した。ミィコのあやしぃの言い方が、『意外と悪くないな』と、僕は少し思った。
「うん、まあ、あやしぃ」
僕はミィコに、ミィコの言い方であやしぃに同意した。
「サトリ! ミコの言い方、真似しないでください!」
僕はミィコに怒られる。
「さて、お二人さん! 帰るよ~! ミコちゃん、お家、反対方向だったよね。どうしよかった?」
愛唯が僕とミィコにそう言うと――
「じゃあ、さとりくん、ミコちゃんのこと、ちゃんと送り届けてくださいね。ミコちゃんに変なことしたら、私が承知しませんから! 私は、卯月さんと一緒に帰りますので。よろしくお願いしますね」
藍里はそう言いながら、僕のことを睨みつける。なんだか、これは藍里の演技なんだなって思うと、藍里のことが可愛らしく思えてしまう。すると、そんなことを考えている僕の顔も自然とほころぶのが分かる。いけない! 僕も残念そうな顔をしなければ!
「は、はい……分かりました。愛唯のこと、お願いします。愛唯、僕はミィコを送っていくから、二人で気を付けて帰ってね」
僕は残念そうな声色で、二人にそう伝える。
「うん、さとりん、また明日! ミィコちゃんに変なことしたら、私、さとりんと絶交するからね!」
愛唯は、僕に疑いの眼差しを向けてくる。
「しませんよ!」
僕は全力で否定するも――
「ミコも、サトリに変なことされないか心配です……」
ミィコまで!
「しませんから!」
この流れ――
――こうして、僕らは、僕とミィコ、藍里と愛唯、二手に分かれて別々のホームへと向かう。ミィコに嫌われなくて、本当によかった、と、僕は心の中で、何度も、何度も思うのだった。
ホームに電車が到着すると、僕らはいつも通りに乗り込み、目的駅へと向かう。
相変わらず、車内の座席は満席で座れそうもない。仕方なく、僕はつり革につかまる。ミィコは僕につかまる。
ミィコはというと、なんだか疲れているのだろうか? 僕につかまったまま、僕に寄りかかり、少し目を瞑って休んでいる。さすがに、立ったまま眠っているわけではないのだろうけど……。
そんな中で、肉球ぷにぷにロッドだけは大事そうにして抱えているミィコだった――
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