我らが聖地
――そうして、僕は待ち合わせ場所に約束の時間通りたどり着いた。
最寄り駅の改札前。彼女は、待ち合わせ時間よりもかなり前に着いていたようなのだが、僕はそのことより、彼女のその服装に驚いた。
ツインテールに深い青を基調にしたフリフリのスカートと黒っぽいブラウスに青と黒のコート。いわゆる、ゴシックロリータといわれる衣装だ。
パステルとか、もっと明るい感じの服装を想像していた僕は、度肝を抜かれてしまった。
青い宝石のブレスレットを今日も身に着けている。お気に入りなのだろうか? ふと、深い青には藍色と言われる色があることを思い出し、その青い宝石が藍里の名前と一致していることに気が付いた。なるほど! 名前にちなんだアクセサリーを身に着けているわけか! と、僕は妙に納得した。
「最近の電気街はコスプレとかアイドルとかメイドさんとかそういうのが人気らしいですよ! すごく楽しみです! あ、ちなみに、ゴスロリはコスプレではないですからね!」
藍里のその言葉に僕は微笑んだつもりだったが、きっと苦笑いみたいになっていたことだろう。
それにしても、最近の電気街はサブカルチャーを大々的にアピールしているのだろうか? 僕が小さかった頃の電気街と言えば、無線と電子部品と怪しいお店がたくさんある場所という認識だった。
古きものはいずれ変わりゆく、これが時代の流れというものなのだろう。
――電車に乗り、席に座る。藍里とは隣同士だ。なんとなく気まずい。この状況を愛唯が見たらなんていうだろう? 間違いなく修羅場だ。
ふと、僕は思う。愛唯はすごく近い存在であり、僕が言うのもなんだが、傍から見れば恋人のように見えていてもおかしくはないと思う。僕も時々、愛唯との関係をそんな風に錯覚する。愛唯は僕のことをどう思っているのだろうか?
別の女の子と一緒にいるのに愛唯のことばかり考えてしまう。これはいけない。とにかく藍里に話しかけよう。
「その服、すごく可愛いよね」
「そう言ってもらえて嬉しいです!」
「髪型、似合っているよね」
「本当ですか? 嬉しいです!」
「今日は楽しみだね」
「はい!」
僕は他愛のない会話をするつもりが、会話のキャッチボールにならない発言ばかりを繰り返してしまう。自分で自分の首を絞めているような、そんな心境だ。
そうこうしているうちに、電気街に到着した。
――小さい頃に来た時とは随分景色が変わっている、気がしたが、その頃もこんな感じだったのかもしれない。だが、怪しい街並みは今も健在だ。
しかし、驚いたことに女の子が多い。煌びやかな衣装や、奇抜な衣装をした女の子が大通りを歩いている。よく見れば、アニメキャラクターの看板も多い。怪しい街並みに可愛いものの融合という、なんだか奇怪な街と化していた。
そんな僕を横目に、藍里の目は輝いていた。まるで光り輝く電脳の楽園を目の当たりにしたような、そんな眼差しだった。
「わあ、すごい、そこのアニメショップに行ってみたいです!」
藍里は、はしゃいでいる。
「まって、そこは――」
藍里に手を引っ張られて店内に連れていかれた。
店内には”ちょっぴり大人向け”な作品がズラリ。焦る僕と対照的に藍里は興味津々。
「奥にもあるみたいですね!」
さらに進もうとする藍里。僕は『そっちに行ってはならぬ……』という心の声が聞こえてきたので僕は藍里を説得し、店の外にでた。
「なんだか、楽しいです!」
藍里は楽しそうだが、僕は内心、とっても冷や冷やしていた。
――ふと、路地裏に見慣れた顔の少年が一人。そして、その両脇に黒装束の人物が二人。
あれは――銀太だ! 間違いなく銀太だ。
すると、銀太も僕に気付いたのか、僕の方を見る――そして、片手を真っ直ぐ前に掲げて首を横に振った。”来るな”のジェスチャーだ。
そのまま、銀太と黒装束の人物は物陰に消えていった。僕は迷った。銀太は事件に巻き込まれたのかもしれない。だが、追いかけるべきなのだろうか?
だが、今は藍里もいる。そう思い、僕は藍里の方を見た。
藍里は硬直している僕のことを、きょとんとした顔をしてみている。
「どうかされました?」
藍里は僕のことを心配してくれているようだ。どうする?
「実は入院中だったはずの親友がまさに今そこにいて――」
僕は藍里にありのままをそう伝えた。
「ええと、それなら、こっそりと様子を見に行きましょう! もし何かあればすぐに逃げて、警察に電話しましょう!」
藍里はやる気だ。
僕と藍里は銀太の後を追った。細い路地に怪しいアニメショップ。看板にはアニメキャラの女の子が描かれ、そこに店名らしき『ラグナアスター』と書かれている。
見たところ、この路地で営業している店舗はここだけだ。
僕が入ることを躊躇って外から店内を眺めていると藍里が不思議なことを言い出した。
「鳳城さん、黒装束ってあんな感じでした?」
藍里が指さす先には――マイナーなアニメのポスターが貼られている。そこに描かれているモブキャラらしき存在。それはまさに銀太と一緒にいた黒装束そのものだった。
「そう、間違いない!」
僕と藍里は店内に駆け込み、店員を無視して地下に降りる。そこから重厚なドアを開け、先へと進んだ。
勢いはよかった……が、僕らは衝動的に行動したことを後悔した。
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