第256話
「カナデ!大丈夫かっ?俺が傍にいるからなっ…って、あれ?」
「バカ者っ。こちらの部屋だ!」
「あ…すいません…っ」
隣の部屋の扉を開けると同時に叫びながら、リオが医師を連れて入って来た。
即座にアルファムに注意をされて、罰が悪そうな顔をする。
それでも俺が心配なのか、医師を引っ張るように早足でベッドの傍に来た。
「カナデ…痛い?すごい汗かいてる」
リオが、俺を覗き込んで額に浮かぶ汗を拭く。
「ありがとう…。まだそんなに痛くはないよ」
「そっか…。俺はどうしたらいい?手を握ってようか?」
「バカ者めが。それは俺の役目だ。おまえは医師の手伝いをしろ」
アルファムが、リオの頭をぐいと掴んで退ける。
「いたたっ…。ちょっ…、やめてくださいよぅ」
「先程から黙って聞いておれば…。カナの傍にいるのも手を握るのも、全部俺の役目だ。これ以上調子に乗ったことを言うと…」
「すいません!冗談ですってば!こんな経験初めてのことで緊張してるんですよっ」
「炎の国の騎士たるもの、どんな時も堂々としていろ」
「はい…」
しゅんと俯くリオに、アルファムが偉そうに言っている。
その様子を見て、俺はぽかんと口を開け、ふふっと吹き出した。
「カナ、何を笑っている」
「えっ、だって…っ、ふふっ!」
「良いことですね。今みたいに、とても穏やかな気持ちでいれば、順調に進むでしょう」
医師の言葉に、俺は顔を二人の反対側に向けた。
医師は、優しく微笑んで「診てもいいですか」と聞く。
「はい、お願いします」
「水みたいなものが垂れてきたんですよね。それなら、そろそろお腹が痛くなってきてませんか?」
「そう言われれば、なんか痛い…」
アルファムとリオのコントみたいなやり取りに見とれていたから気づいてなかったけど、お腹が痛い。
医師は、触診をした後に、俺に両膝を立てて広げるように言うと、後ろの穴に器具を入れて広げ、中を覗いた。
「おっ、これは…。カナデ様は、やはり出産に適した身体をしているようです。もう頭の先が見えてますよ」
「頭…ええっ!みっ、見えてるのっ?大丈夫なのっ?」
「大丈夫です。呼吸を乱さないように、ゆっくりと規則正しく繰り返してください。私がいいと言うまでは、いきんでは駄目ですよ」
「は、はいっ」
いよいよだと思うと、すごく緊張してきた。
自分の心臓がドキドキとうるさい。
規則正しい呼吸を繰り返す俺の手を、大きな温かい手が包む。
その手を強く握り返すと、「俺がいるぞ」とアルファムが俺を覗き込んで頷いた。
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