第9話 王城へ
昨夜、泉から部屋に戻る途中にアルファ厶の腕の中で眠ってしまった俺は、とても清々しい気分で目覚めた。
上半身を起こして両腕を上にあげて伸びをし、ふと違和感を感じて隣を見るとアルファ厶の姿がない。
この世界に来てからほぼ毎日一緒に寝て、目覚めた時には一番に顔を見ていたから、少し寂しく感じてしまう。
そういえば俺の頬にキスをしながら『準備の為に先に起きる』と言ってた気がする。半分寝ぼけてたから夢だと思ってた…。
アルファ厶が寝ていた場所に触れると、まだ少し温かい。手に感じるその温かさだけで、ほわりと幸せな気持ちになって、一人で顔をほころばせながらベッドから降りた。
起きてすぐに着替えをして朝食を食べ身支度を整えると、お世話になった城の人達に挨拶をして出てきた。
そして俺は今、日本で見た事のある馬より一回りは大きな馬にアルファ厶と一緒に乗って、土を踏み固めたような道を進んでいる。
アルファ厶の硬い胸に背中をつけてアルファ厶の前に座り、手綱を持つアルファ厶の両腕にすっぽりと収まり、全身がアルファ厶の匂いに包まれて自然と顔が緩んでしまう。
出発前、馬に初めて乗れると楽しみにしていた俺は、規格外の大きな馬を見て一気に不安になった。
でもアルファ厶に抱かれて乗った馬は、とても高くて見晴らしよく、白い毛並みがまるで雪のように美しく、馬が賢いのかアルファ厶の手綱さばきがいいのか、思ったよりも振動が少なくて乗り心地が良かった。
俺とアルファ厶の前を二人の兵がそれぞれ馬に乗って先導し、その後ろに騎乗するシアン、シアンの後ろをアルファ厶と俺が進んで行く。
俺達の後ろにも馬に跨った数人の兵と、荷物を載せた車を引く馬が数頭ついてきている。
この世界に来てから一度も外に出たことがなかったけれども、城の中で約二週間過ごして何となく分かってきた。
城の中の雰囲気や今日着ている服装などは、まるで中世のヨーロッパを思わせる。
だけどそもそもが、俺が暮らして来た世界にある文明とはまるで異なる。
ここには電気や車などの便利な物は無い。
その代わり魔法のような不思議な力がある。
例えば夜になると、部屋や廊下の壁に取り付けられた丸いガラスの玉が、勝手に明るく光り出す。
その光は、ベッドに潜って目を閉じると自然と消えてしまう。
例えば顔や手を洗う時、大理石のような石で出来た台の前に立つと、台の上面に丸く空いた大きな穴から水が湧き出てきて、それをすくって使用する。
風呂はまるで日本にある温泉のようで、これも大理石のような石で出来た大きな湯船の端に小さな穴が空いていて、そこから絶え間なくお湯が流れ出てくる。
アルファ厶曰く「灯りが点るのも水や湯が湧き出てくるのも全て魔法だ」そうだ。
だから最先端の家電がなくても、魔法でとても快適に過ごせることが分かった。
服装も快適で、部屋の中に閉じこもっていた間は、ゆったりとした裾の長い長袖Tシャツのような上着とズボンを履いていた。
ただ素材が何から出来ているのか分からなかったけど、とても肌触りが良く気持ちがいい。
でもそれはアルファ厶が王様だから、俺もいい服を着させてもらえていただけかもしれない。
今日は出掛けるということで、部屋着よりも更に肌触りのいい白いシャツと黒い細身のズボン、そして赤色の丈の長い制服のようなジャケットを着させられた。
同じく白いシャツに黒いズボン、俺と色違いの黒い上着を羽織ったアルファ厶が、俺を見て満足そうに頷く。
「いいな。カナは赤が良く似合う」
「…うそだ。俺、赤なんて着たことないよ?派手すぎないかな…」
「派手なものか。カナの美しい黒髪とよく合うぞ」
アルファ厶が俺に近づき髪の毛を撫でる。
城の中では俺と同じようなラフな格好をしていたから、きちんと正装をしたアルファ厶を見て、俺の胸はキュンキュンと鳴りっぱなしだった。
今も俺を包むように手網を持つ黒い袖から覗く大きな手を見て、ドキドキと胸が高鳴る。
今の俺ってアルファ厶の何を見てもときめいてる気がする。なんか…恋する乙女みたいだな…。
そんな風に思いながら、俺は手網を握るアルファ厶の手にそっと触れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます