第八話『頭髪検査』

「頭髪検査をするので出席番号順で廊下に並んでください。先に男子から」


 頭髪検査と一括りにして言っているが、頭髪だけでなく服装などを含めた全身の身だしなみを検査をされる。

 とはいえ、そんなに厳しいものではなく、ピアスとかのような派手なものでなければ引っかかっても軽く注意を受ける程度だろう。

 私は普段から真面目なので引っかかるようなことはないし、周りのおしゃれな女子達も男子達が検査している間に、普段緩いリボンはしっかり付け直しているし、折っていて短いスカートの丈は長くしたり予備で二重にしたりして乗り切ろうとしているので引っかかる人はそんなに多くない。

 待ち時間に爪を切ったりしている子もいるくらいだ。

 男子の検査が終わって女子の番になり、出席番号一番の望、そして出席番号二番の私の順番に検査をおこなうわけだけど、望が引っかかった。髪の色のことで。


「地毛証明書は出してるから強制はしないけど、目立つから黒染めしたほうがいいって言われちゃった。別に好きでこんな色してるわけじゃないのに。朔みたいな黒くてサラサラな髪が良かったな」


 実際に望の髪色は薄い茶色なので、普通の人から見てもとても目立つのは間違いない。


「髪染めるの?」

「染めることに抵抗がある訳じゃないから染めてもいいけど……」

「私は望の髪の色好きだよ。すごく綺麗だと思う」


 望の持つキラキラした黒色と髪色が良い感じにマッチしていて、本当にとても綺麗だ。

 まあ望ならどんな色に染めたとしても綺麗だと思うけど。


「……朔ってそういうとこあるよね」

「ねぇ、髪触ってもいい?」

「朔と比べたら、くせっ毛だし触り心地も良くないと思う」

「そんなことないと思うけど」

「じゃあ今度、朔の髪もいじらせて。色んな髪型見てみたいから」

「まぁそれくらいなら」


 私も髪質だけならそれなりに良いと思うけど、望の髪質はそれとはまた違った良さがある。

 そして何より色が綺麗で、ずっと見ていても飽きない神秘的な美しさがある。

 だから前から一度触ってみたいと思ってた。


「朔?」

「ん、ごめん何? 夢中になってた」

「……ありがと。髪褒めてくれて」

「綺麗なものは綺麗だよ。望はとっても綺麗」

「分かったからもうやめて……!」


 廊下の方へ目を遣ると、少し揉めていてまだ時間がかかりそうに見える。


「そういえば、朔はカーディガンぶかぶかだけど、それって注意されないの? もしかして彼氏のやつ?」

「……されたことはないけど。それに彼氏なんている訳ないでしょ」


 私みたいな人間を好きになるような人なんて世界中探して三人いたらいいなくらいにしか思っていない。

 一応、誰にもモテ期が三回あるって言うからね。


「本当かなぁ。友達なんだから隠し事はなしだよ」


 友達だから隠し事はなし。

 なんて響きの良い言葉なんだろう。

 望に隠し事はしない。友達だからね!


「本当だよ。そういう望こそ彼氏いるんじゃないの?」

「いないいない。誰とも付き合う気ないし」

「そうなんだ。勿体ないね」


 望ほどの美人なら、好きになった相手を誰でも落とせそうなのに。

 人の心はころころ変わるものだから望がいつ恋愛したくなるかなんて分からないけど、少なくともすぐに望と疎遠になるという心配をしなくて良さそうなのは正直嬉しい。


「朔が居てくれるだけで充分だよ。もっと早く出会いたかったなぁ」

「っわ、私も! もっと早くに望と会いたかった!」

「あはは、ほんと朔は可愛いなぁ」


 ぐぬぬ……。

 確かに子供はすぐ真似したがるけど、本気で同じこと思ったんだから仕方ないじゃん!


「あ、終わったみたい」


 頭髪検査が終わり、全員が自分の席へ戻る。

 先生が話している中、ふと望の方を見ると窓の外を見つめていて、表情こそ見えないがその姿はとても美しく、そしてとても悲しげに私の目には映った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る