第六百七十一夜『スマホの音が…-ghost vibration-』
2024/06/11「闇」「音」「先例のない遊び」ジャンルは「ホラー」
俺は母親の首を絞めている、背後から両手で思いっきり締めている。
母は何か喚き声を挙げながら抵抗していたが、捕り物の要領で背後から背中を押さえつけながら首を絞め続けたら、やがて動かなくなった。
* * *
「またこの夢か……」
俺は度々この様な夢を見る。
別に俺は母に対して殺意を抱いているとか、そういう事は無い。
俺は今の生活に満足しているし、母を殺す様な理由も無い。
ただ一つ、不満が有るとしたら、それは母の立てるスマホの操作音か。
母はスマホでタイピングする音を最大にしているのだが、これが非常に
これが、どうやってそんな
俺はこの音が非常に苦手で、母がスマホで何かタイピングする度に音量を下げる様に言っているのだが、これが聞き届けられた事は無い。
「一々うるさい! 黙ってろ!」
怒鳴られた。うるさいは、こちらの台詞だ。自分は音量最大で騒音を響かせているにも関わらず、人の話も聞かずにうるさいと
この事からも分かる様に、別に母は
俺はこの爆音のせいで、いつでも耳鳴りが止まらない。
それだけではなく、何かに集中していないと
特にベッドの中で何も考えていないと、あの爆音が耳の中から聞こえてくるのだ。
繰り返すが、俺は別に母を絞め殺そうだなんて計画はしていない。
仮に俺がノイローゼになったとしても、あんなのでも母親なのだし、そんな非倫理的な事をする訳が無い。
そもそも殺人なんて非社会的な行動を行ってまで、騒音に由来するノイローゼは解決すべきものかという命題が、俺の中には有った。
戦争経験者が殺人の記憶がフラッシュバックして心的外傷後ストレス障害に陥るという話があるが、母を殺してストレスから解放されたとして、今度は自分で自分の母親を絞め殺したというストレスが代わりに付きまとうのでは?
仮に母を殺したら、母親殺しというレッテルが一生付きまとう事になるが、そのレッテルや身分は騒音から解放されるのに見合うのか?
そもそも殺人を含む犯罪とは、メリットがデメリットを上回るから冒される危険行為なのだ。
だから一般人は人殺しなんかしないし、生命の危機にあっては殺人は法的に許される。何も失う物が無い人間は塀の中に入るためにチンケな犯罪をするし、殺意を認めた殺人犯は限界だったと供述する。
ベッドの中で考え事をするのは常々だが、アレやコレやと考えていたら疲労感を覚えた。
脳が穏やかになるのを感じるて、
結局、俺は今日も一睡も出来そうにない。
* * *
チャイムが鳴り、スピーカーから
時間は朝の六時、俺は何か
「おーい、起きろ。朝の点検までに部屋の掃除をしておく様に!」
「はい!」
とにかく、俺はここ最近は耳鳴りにも不眠にも悩まされる事は無く、幸せに生きている。悪夢を見たとしても、それは恐らく自分と全く関係の無い、突拍子の無い
俺は、考えながら看守に返事をし、自分の入っている独房の掃除を始めた。
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