第四百五十一夜『自分史上最強のお菓子-spice up!-』

2023/09/22「草」「機械」「燃える目的」ジャンルは「スイーツ(笑)」


 通販で荷物が段ボールに入ってうちに来た。

 俺ははやる手を抑えながら、荷物を開けた。

「遂に手に入れた……最強スナック『タイラント・ワンチップチャレンジャー』! 実物は初めて見るな……これは俺の人生や価値観かちかんを塗り替えてくれるに違いない!」

 段ボール箱の中に入っていたのは、真っ黒いパッケージの中心に唐辛子を彫って作ったジャックオーランタンとも言うべきマスコットキャラクターが口から火を吹いているポテトチップスだ。しかしこれはただのポテトチップスではない! タイラント・ワンチップは二百万スコビルを誇る超超超激辛げきからスナックであり、世界中の超超超激辛の香草を独自の手法で専用のマシーンを使って抽出、凝縮ぎょうしゅくして一枚一枚丁寧ていねいに作った最高の逸品……らしい。

 そもそも何とかスコビルと言われてもサッパリ分からないし、そもそもスコビルなんて単位は他では聞いた事が無い。それによくよく考えたら、専用のマシーンを使って抽出なんて、他のスナック菓子でも魚粉だのチョコレートだのでやっている気がして来た。

 しかしタイラント・ワンチップはちがう! 何せこの超超超激辛スナックには、パッケージの目立つ場所に諸々の注意事項がデカデカと書いてある。曰く、未成年の手に届くところに置くべからず、一人で食べるべからず、開封する際は注意すべし、一枚食べたら三十分程様子を見てから次の一枚を食べるべし……等々普通のスナック菓子ではあり得ない様な事が書いてある。

「まあ、こんな信じられない様な注意書きはコケおどしだろうな」

 スナック菓子に注意書きが書かれていても、普通はジョークだろう。そもそも販売されているスナック菓子で、食べたらどうにかなる様な事が本気で書いてあるとは考えられない。加えて、俺は言うまでも無く大の辛党。激辛スナックなんて食べ慣れているし、巷の激辛スナックなんて食べ飽きている。

「さて、早速開封するか」

 俺がタイラント・ワンチップの袋を開けると、中からとんでもない刺激臭がして来て、目に異変を覚えて思わず涙目になった。いや、これくらいは予想していた程度だ。いつだったか横浜で激辛ラーメンが運ばれて来た時、これと同じような感覚に陥った事がある。

「これは、期待出来るぞ!」

 俺は胸の高まりを覚えつつ、タイラント・ワンチップを口にした。

 瞬間しゅんかん、俺の脳味噌のうみそに形容し辛い衝撃しょうげきが走った。無理矢理形容するならば、世界中のスパイス全てを百万倍に凝縮して一枚のポテトチップにしたとでも言うべきか? いや、それでもこの素晴らしいポテトチップの百分の一も魅力みりょくを紹介できていない!

 俺は脳味噌に自分史上最大の衝撃を覚えつつも、このとんでもなく辛いポテトチップスを平らげた。


 ある辛党の男の家に、通販で荷物が段ボールに入って届いた。

 彼は逸る手を抑えながら、荷物を開けた。

「遂に手に入れた……最強スナック『タイラント・ワンチップチャレンジャー』! 実物は初めて見るな……これは俺の人生や価値観を塗り替えてくれるに違いない!」

 段ボール箱の中に入っていたのは、真っ黒いパッケージの中心に唐辛子を彫って作ったジャックオーランタンとも言うべきマスコットキャラクターが口から火を吹いているポテトチップス。辛党の男は、このポテトチップスの袋をうやうやしく天に掲げる様に持ち上げて言った。

 激辛スナックには、パッケージの目立つ場所に諸々の注意事項がデカデカと書いてある。曰く、未成年の手に届くところに置くべからず、一人で食べるべからず、開封する際は注意すべし、一枚食べたら三十分程様子を見てから次の一枚を食べるべし、……等々普通のスナック菓子ではあり得ない様な事が書いてあった。

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