第三百六十四夜『かぐや姫考-mythic-』

2023/06/13「本」「竜」「ゆがんだ高校」ジャンルは「悲恋」


 皆さんはファム・ファタールと言う言葉を聞き、誰を思い浮かべるだろうか?

 ファム・ファタールとは男性を破滅はめつさせる魔性の女性と言う意味で、百科事典を引いたところ、その代表例としてサロメや妲己だっきが挙げられていた。

 しかし私はこの例にはほとほと不満である。第一にファム・ファタールとはフランス語であり、ともすればフランス語圏を例に挙げるべきではなかろうか? 第二に私が引いた百科事典は日本語の物であり、原語はともかく利用者にイメージを抱かせやすいその原語圏の該当人物を挙げるべきではなかろうか? 中東の出身でありキリスト教圏のサロメはまだしも、中国出身の妲己は少々優先すべき人物かと言われると首をかしげる。

 私は常々、日本にける最もポピュラーなファム・ファタールはかぐや姫であると主張している。その美貌びぼうから多くの男に言い寄られ、蓬莱ほうらいの玉の枝や龍の首の珠など無理難題を言いつける形でそでにし、結果として男共ははじをかいたり損をこいたり怪我をしてしまう。これこそファム・ファタール以外の何物でもなく、そして誰もが知っている最もポピュラーなファム・ファタールと呼ばずしてどうするべきだろうか?


 昔の映画かアニメで見る様な、おまじないの品々を取り扱う小さな小間物屋があった。

 店の中には、飾り気の無いシンプルな黒のイブニングドレス風の姿をしたすみを垂らした様な黒髪が印象的な店主と、どこかナイフの様な印象を覚える詰襟姿つめえりすがたの従業員の青年とが居た。

 小間物屋は今しがた、近所の高校生が一種の恋のおまじないのオブジェだと言う貝殻かいがらで出来たチャームを購入こうにゅうして店を後にしたところで、店内に客は一人も居なかった。

「しかしアイネさん、この店に置いてある商品って半分ガラクタみたいな物も多いけれど、一目で価値がある物だと分かる様なすごい物もあるじゃないですか。一体どんなルートで手に入れているんですか? あちこちの伝手つてから入手したとは聞いてますが、詳しく聞きたいです」

 そう言う従業員の青年に、店主の女性は特に感情のこもっていない、それこそ酷くどうでもよさそうな口調で答えた。

「伝手でもらったと言った時は、伝手で貰っただけなの。特に深く話す程の事でもないし、その必要も無いから話さないだけ。私の知り合いには、何故だか分からないのだけども、私にプレゼントしたがる男の人が多くて……」

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