5 皆もう、笑うしかなかった

「何?」


 俺は身を乗り出した。


「いっそあのひとが死んでいたのなら、ここまで心配することはないのに、って。その時には縁起でもないって笑い飛ばしたけど、……まさか、それ本気で思い込んでしまったとか」

「……いやそのまさか、はあり得るからなあ。ともかく二人とも一緒に来てくれ」

「私もですかあ?」

「ああ。もしかしたら必要になるかもしれないからな」



 俺は馬車を走らせ、途中で部隊によりサムを拾った。


「どうもアゼルタさんお久しぶりです」

「こちらこそ。話は聞いたけど、本当にそんなことが?」

「……まあ、行ってみれば判ります。それで、もしお二人から見てもどうにもおかしいと思ったら、二人して誘い出して欲しいんです」

「誘い出す」

「彼女の実家に連れて行こうかと当初思ったんですが、メイミは実家と折り合いが悪くて…… 幸い俺の実家の両親とは仲が良いので、隊長の方から連絡をつけてもらいました」


 この言葉にややアゼルタは不満そうだった。

 俺達はどちらも下級貴族の三男四男といったところで、独立して家庭を持ったことも一つの誇りだったのだ。

 実家に頼る様なことはしないで済むなら。

 アゼルタもよく言っていた。



 だが皆でサムの部屋を訪問すると、まずメイミが飛びついたのは、アゼルタの方だった。


「お久しぶり! 貴女と会えるのはいつになるかと思っていたわ!」

「私もよ。もう、この厳戒態勢何とかならないものかしらね!」


 二人は夫婦顔合わせして以来、ずっと仲が良い。

 同じ学校での友人だったと言ってもおかしくないくらいに。


「旦那様」


 ぼそ、とメイミの行動を眺め回していたリータがつぶやく。


「確かに視線がまるでサミュエル様に向いてません」

「そうだな」

「貴女の天使はどう?」

「おかげさまですくすくと、見てやって! これからも私一人で育てていかなくちゃならないのだけど、それでも誰かの助けが必要な時に顔を覚えてもらっていた方がいいから!」


 嗚呼、という顔を一瞬アゼルタはした。

 リータも頷いた。

 子供を見せての話、その後のお茶、皆席についてはいるのだが、四人しか居ない前提で彼女はカップを用意した。


「最近は本当に忙しくて、このひともなかなか帰ってこなくって。まあリータと二人、羽根は伸ばせたけど」

「そうなの。……いいわね。でももう私は心配する必要も無いし、これからも機会があれば、貴女とこうやってお喋りしたいわ」


 皆何と言っていいのかも判らず、ただもう笑うしかなかった。

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