<秘密> 21

日が沈み、

気が付けば周囲は深い闇に包まれていた。

その闇は今や俺の心を投影していた。


誰もいない屋上で俺は夜空に向かって叫んだ。

何かを吐き出すように

言葉にならない叫び声を何度も上げた。

そうすることで

徐々に憑き物が落ちていくような気がした。

先ほど聞いた茜の話について

冷静に考えることができるだけの

余裕が心に生まれた。


茜は男の名前を聞いていないと言っていた。

白髪のオールバックに黒いサングラス。

そして口髭。

そんな男が学校にいただろうか。


一学年に三クラス。

それだけで十八人の教員がいる。

それに加えて

高学年の音楽の授業を担当している池島千代。

そして校長と教頭。

他には事務職員と養護教諭がいる。

あとは学校によっては

司書教諭や用務員が置かれることもある。

どちらにしてもその特徴的な外見なら

すぐに見つけ出すことができるだろう。


そして茜の話の中で気になった点がもう一つ。


・君は誰かさんと違って素直な子だ


その誰かさんというのは

葉山のことを指しているに違いない。

そして男が葉山を妊娠させ、

その命を奪った犯人であることは間違いない。

しかし問題はそこではない。

葉山の妊娠が

彼女の望まぬ形でなされた

ということが大問題なのだ。


胸のあたりを鈍い感覚が襲ってきた。

俺は吐きそうになるのを必死で堪えた。

大きく深呼吸をしてからもう一度夜空を見上げた。

雲一つない空に星々が輝いていた。

ベテルギウスとリゲルの輝きに導かれて

俺の目はオリオン座を見つけ出していた。

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