第17話 山へ
街を出て向かう先、そこは見覚えのある場所、どうやら幹人があることを解決したあの場所。
「例の山に行くの?」
幹人の問いにリリは思い切り頷いた。
「知らない? 幹人ったらホントウに私たちの知らない時代から迷い込んできたんだね、カワイイ子ちゃん」
顔を赤くして黙り込む。開いた口からは言葉のひとつも出てこなくてリリを見つめるのも恥ずかしくて、胸を駆け巡るすっきりしない感情とともにリズを抱き締める。
リズを抱いてようやく口を噤む幹人の様子を眺めながら表情を緩めて言葉を紡ぐ。
「私たちのことなんて誰も覚えてないのだろうね」
なぜだか嬉しそうなリリ、幹人は絶対に言えなかった。異世界から来ましたなどと言えるわけもなくて、しかし、空気感の違い、異質の種類の違いで気が付いていた。世界そのものが幹人を異物だと認識していて、それでもなお受け入れていた。
「未来から私たちの生活を覗かれるだなんて許せないからねえ」
プライバシーの侵害に似た話だろうか。そのプライドは幹人には理解しがたかった。死んだあとのことなどどうでもいい、それが本音なのだから。
「時の線の向こうから知ろうとするな、一線越えて踏み込んで知れってね」
人々が後ろから付いて来ている。幹人にとっては今の状況の方が恐ろしく恥ずかしかった。今の話を聞き取られていないか、心配な幹人の中から恥は吹き飛ぶ。湧いてきた心配をリリに耳打ちして共有する。
「さっきの聞かれたらマズくない?」
「あっ」
しまったと言わんばかりにリリは口を塞いでいた。
――考えなしだった!?
驚愕のあまり目を見開く。リリと出会ってから感情は踊り狂いっぱなしであった。
「どうぞ安心して乱心してくださいまし」
「乱心を催促しないで」
これから先のことが不安で仕方がなかった。
☆
本来抱くはずのなかった不安とともに歩いてようやくたどり着いた山、しかし、かつて幹人が入ったそことは別の方向へ、山には入らず境界線を沿うように回って進みゆく。どこへと向かっているのだろう。幹人には見当もつかない。
「どうしたの?」
リリの問いに正直に答えた。
「山に入らないのかなって」
「ああ、迷わない道をもう見つけてるからねえ」
リリの言葉に頷くだけ、納得してついてゆく。後ろからついて来る街の住民、その内のひとり、あの農民の男が幹人に耳打ちした。
「さっきリリ嬢と話してたやつ、アレだろ? 隣りの村に埋められてるってウワサの『時渡りの石』だろ?」
幹人は身を運命に委ねてただ一度頷いた。話を合わせるのが最も手っ取り早いと思っていた、正解だった。
「王都の学校とやらに渡せば大金ウハウハらしい。あくまでもウワサだが盗賊どもは金目当てとかなんとか」
実に盗賊らしい理由、実に野蛮な手段、実に心無き現状。それを見つめ返して幹人は言葉のひとつも出ない。
「連中には近づかねえことだな、リリ嬢の母さんよりもすげえ魔法使いもいるらしいしな」
――そ、それは
口にしようとしたがそれは遮られた。
「そうね、許せないけど、立ち向かって死ぬのは愚かの極みだね」
そんな言葉を放つリリに目を向ける。どこかなにか強そうな意志を秘めて輝く瞳、しかしその中に深い歪みを見い出して幹人は言葉を仕舞いリリから目を離せずにただただ見つめながらリリについてゆくだけだった。
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