582.魔石と創世〜ミハイルside

「余の姉、ヒュシスよ。

隣国へ、リドゥール国へ戻るのか……」


 場面が変わる。

寝台に座るヴェヌシスとヒュシス。

2人の見た目に、年月が幾らか経過したのだと感じた。


「ええ。

失っていた11年間を思い出しても、私の祖国はリドゥール国だから。

でもヴェヌシスが私へ与えたロベニア国での爵位と家名。

チェリア侯爵家は、成人した私の子に継がせるわ。

まだ成人して数年しか経っていないけど、しっかりした子だから大丈夫」

「行かないでくれ……」


 ヴェヌシスがヒュシスの手を取る。


 しかしヒュシスは頭を振った。


「いいえ。

駄目なの、ヴェヌシス。

私がヴェヌシスと双子だからこそ、ヴェヌシスが私に心を許すからこそ、周りの人達が何かしらの思惑を張り巡らせる。

そのせいであなたの妻子達も、私達と血の繋がった弟妹達も、私の命を狙うわ。

自分達を差し置いて、私がロベニア国の権力を得るかもしれないと恐れるの」

「……すまないと思っている。

だが俺が守るから」


 双子達の会話から、権力争いが起きているのだと察する。


「ヴェヌシスが存命中ならヴェヌシスにも、ヴェヌシスの契約する聖獣達にも守られるのかもしれない。

けれどヴェヌシスは今、病に侵されてる。

もしヴェヌシスが死んでしまえば、せっかく平和な世の中になったのに、王位争いという内乱が起きかねない。

その時、巻きこまれるのは私だけじゃない。

私を過酷な環境から救い、妻として迎えてくれたフィルン族長である夫もそう」

「ヒュシス……頼む……私にとっての家族は、もうヒュシスだけなんだ。

私の周りの者達は、皆が権力に目がくらんでしまった」

「ヴェヌシスを慕う聖獣達がいるわ。

あなたは独りじゃない事を忘れないで。

でも、それでも不安よね。

だから私は息子の1人を、ロベニア国に残していくの。

息子は隣国三大部族長の直系でもある。

私さえ近くにいなければ、ロベニア国の後継者争いから距離を取る事ができる」

「ヒュシス……俺はヒュシスが良い。

他の血族では駄目なんだ。

俺が信用できる家族は、お前だけなんだ」

「ごめんなさい、ヴェヌシス。

私は今の家族を守らなければいけないの。

それに三大部族長夫人の私が、ロベニア国の権力争いに巻きこまれて死ねば、また戦争が起きかねない」


 どうやら双子達は、それぞれの立場があるからこそ、ままならない背景が生まれているようだ。


 必死に引き止めるヴェヌシスを、ヒュシスが抱きしめる。


「ヴェヌシス。

やっと思い出せた、私の双子の弟。

あなたを見守っているわ。

この魔石を私だと思って大事にして。

ヴェヌシスにもらったブローチほどではないけど、魔法を掛けたの」


 ヒュシスが懐から出したのは、握りこぶし大の魔石。

ヴェヌシスにそっと握らせる。


 魔石には細かな魔法陣が直接彫られていた。

一目で精巧な細工をしてあると分かる。


「ちょっと失敗した時に、私が主となった世界を亜空間に作ってしまったのだけど……」


 待て待て、どんな失敗をしたんだよ。

世界を創世できるって、話が唐突にぶっ飛んだ方向に向いたな?


「失敗した時?

自分が主となった?

失敗して?」


 ヴェヌシスが首を捻る。

俺も首を捻った。


「亜空間収納で魔力を暴走させただけよ」

「……何をしているんだ」


 ヴェヌシス、俺もそう思う。

そんな事をすれば空間が不安定となり、空間ごと圧縮しかねない。


 普通は死ぬ。


 だが直接魔石に細工したり、高度な魔法である亜空間収納を自分の……世界?

世界なんて本当にできるのか?

まあとにかく、そんな事をやってのけるくらい、ヒュシスは魔法の才能があるらしい。


 さすがと言うべきか、初代国王の双子の姉だと思えば、当然だと言うべきか。


「とにかく!

魔石と私の世界を繋げてあるわ。

魔石にかけてある守護魔法は、ヴェヌシスを守ってくれると思う。

ヴェヌシスには聖獣もついているし。

でもヴェヌシスの傷ついた心は守れないでしょうから、もし心が苦しくなったら、魔石と繋げた私の世界で心を落ち着けて。

私の魔力で溢れた世界だから、近くに感じてもらえると思うわ」


 ヒュシスがそう言うが早いか、再び景色が変わった。




※※後書き※※

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

亜空間収納で世界を創世しちまったなぁな回はNo.549です。

ちなみに今世となるラビアンジェも、ベルジャンヌの作った世界の主として、No.501〜No.505でジャビと戦ってます。

興味があれば、ご覧下さいm(_ _)m


◯昨日から新作を投稿し始めました。

以下、昨日とほぼ同じ宣伝です↓

【くっせえですわぁぁぁ!

〜転生女伯爵の脱臭領地改革〜】

https://kakuyomu.jp/works/16818093089751214336


カクヨムコンに参加しようと、以前にサポーター限定記事で投稿した作品を加筆しまくっております。


令嬢がオッサンに転生したら、深刻な体臭に悶絶して泣き叫ぶお話です。

コメディですが、ちゃんと領地経営的なスローライフ的なお話も織り混ぜていく……はず。

恋愛要素は少しずつ濃くなる……はず。

一般的に残酷とされそうなシーンは2話目だけだと思います。

※主人公的には、ある意味での残酷シーンが終始つきまとう気はしますが……。


コンテスト作品の為、よろしければフォロー、レビュー、応援を下さると大変嬉しいです。


書籍化した本作と共に、今後ともよろしくお願いします( ゚∀゚)o

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