575.燃える小屋
「戻って来たか」
ロブール公爵は港に残し、魔法で転移して王城の離宮へと戻る。
もちろんキャスの魔力は分けて貰っていない。
卵の載った船は港から出て随分経ったからと、ラグォンドルの魔力を公爵にバレないように分けて貰った。
転移した途端、目に飛びこんだのは炎。
私が寝起きする小屋が、炎に囲まれていた。
こちらを振り向く事なく燃え盛る小屋の前に佇み、声を発したのは薄緑銀の髪色をした男。
息子であるエビアスと同じ髪色だ。
男の名前は、オルバンス=ラト=ロベニア。
私の戸籍上の父親であり、血縁上の異母兄。
小屋からはリリの魔力と、ポチの首輪に籠めた私の魔力を感じる。
小屋には保護魔法を掛けてある。
中の2人にも、あらゆる攻撃を弾く魔法具を持たせてある。
無事だろう。
未だかつて、国王が直接ここへ訪れた事はない。
ましてやアシュリーが
小屋に入るには、私の許可が必要となる。
国王が中に入ってアシュリーの存在を確認する事は、できなかったはず。
私の魔法が掛けてあるから安全だと思って火を放ったのか?
もしくはアシュリーがいないと確信して、腹いせに火を放ったのか?
不用意に言葉を発せず、無言で次の言葉を待つ。
すると国王が私の方へゆっくり振り返り、近づいて見下ろしてきた。
冷え冷えとした国王の黒眼と、視線を交える。
「神殿にいた流民達が、全員いなくなったらしいな。
何をした?」
「命令通り、病の蔓延を防ぐ為に隣国へ送り返しただけだよ」
__バシン!
答えた途端、国王が私の頬を直接打つ。
もちろん予想して、国王が打つ手と同じ方向へ体重を逃がして倒れる事で、力を逃がしている。
国王が私に直接手を上げたのは、スリアーダやエビアスと違って初めてだ。
やはりアシュリーを亡命させた事に気づかれたかな?
珍しく感情的だ。
顔を上げて黒眼を見つめれば、国王もまた、私の真意を探っていると眼球の揺れで察した。
「流行病を治し、ロベニア国内の流民問題を解決しろと命じはしたが、見返りなく送り返せとは言っていない。
常にロベニア国が利益を得られる行動をしろ。
そう命じていたはずだが?」
「スリアーダ王妃が流した毒が、流民達の間で流行った病の正体だけど、君は知っていたのかな」
2人きりの時まで、敬語を使ってやる必要はない。
普段の口調で話す。
「スリアーダが?」
「スリアーダ王妃は私を使って、自分が撒いた毒の存在を揉み消せるような提案を、君にしたんじゃない?
もちろん私に毒に関して何も告げず、毒の存在そのものを無かった事にするような」
僅かに寄った眉根を見て、国王は知らなかったと当たりをつける。
立ち上がって、下から真っすぐに黒眼を見据える。
「正妃なのは公女だったスリアーダの方なのに、相変わらず興味ないんだね」
言外に、アシュリーへ過剰な執着をしておきながら、侯爵令嬢の身分を不当に剥奪し、側室という妾扱いにしているだろうと告げる。
「貴様っ」
ギリリと歯を食いしばり、憎々しげに睨みつける国王。
「私を叩いて気が済んだなら、もう良いかな。
スリアーダ王妃の行動で、損ないかねない国の信用は守った。
命令違反はしていないよ」
「待て」
そう言って国王の脇を通り過ぎようとして、腕を掴まれた。
「アシュリーをどうした。
今日、チェリア家が当主交代の承認を要請する為、登城した」
「それで?」
「自らをチェリア家から除籍した上で、娘であるアシュリーは余の側室なのかと問うた」
なるほど?
側室や実母としてではなく、チェリア家の嫡女としてのアシュリー=チェリアの扱いを失踪して何年も経った現在までどうしているのか知らなかった。
というより、終わった話だと思いこんで考えた事もなかった。
つまりアシュリー=チェリアの扱いは、未だに王家の闇扱い。
探ろうとするだけで死の危険や、家の断絶が待っているという事か。
強固な情報規制を20年近く敷くくらい、国王の中にアシュリー=チェリアの失踪に関して、後ろめたい何かがある。
私の勘は正しく、更に私は既に国王の後ろめたい何かが何なのか、答えにたどり着いている。
恐らくアシュリーが国王に宛てた手紙。
答えはそこに書いてあるんだろう。
もちろん中身は読んでいないけど。
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