525.感情を振り切った先〜ミハイルside
「人間!
よくも俺のピヴィエラを傷つけたな!
その上、俺達の子を殺した!」
__ザザザザザザ……。
王女が聖獣へと昇華させる魔法陣を気絶していたラグォンドルの下に出現させた。
かと思えば、ラグォンドルはハッとして身をくねらせ、そう叫んで魔法陣から出ようとする。
「まあ、人間というくくりにすれば?」
「ベル!
認めてどうするの!」
王女の頭上を陣取るキャスケットは、黒い巨体を聖獣の風で魔法陣に縫い止めながらつっこむ。
俺も王女は、言葉選びを学んだ方が良いと思うぞ。
短い時間しか接していないが、王女は情緒性がやや……そこそこに乏しい。
もちろん環境のせいだと容易に推察できるが……。
「ピヴィエラ!
お前は俺と別れて平気なのか?!
俺は嫌だ!
駄目なところがあれば直す!
だから別れないでくれ!」
……巷で人気の小説に、とあるカップルの別れ際、片方が駄々をこねるシーンがあったな。
こんな感じだろうか?
とは言え、巨体がドンドンと地面を打ち、長い体躯を激しくくねらせて土や石を飛ばす、ある種のバイオレンスアクション的要素はなかったが。
それらを王女が障壁で防いでいるから、俺達
王女の方はピヴィエラを腕に抱えたまま、森周辺に2つ目の結界を張り始めていた。
最初に張ったレースのような結界よりも、更に緻密な編み目様に形成している。
魔力の低い生物を対象にしているからかもしれない。
俺が元いた時代に見た、魔の森に張られた結界。
全く同じ結界が今、俺の目の前で完成しようとしていた。
この結界から抜け出すのは、やはり魔力が皆無か、それに準ずる状態にするしかない。
今の犬、猫、子兎になった俺達なら抜けられるんだろう。
そういえば魔力を枯渇しても余裕で動けた妹や、妹の偶発的思いつきにより発明された魔力を遮断するローブを被ったレジルスも、魔の森から脱出できたんだったな。
やはり魔力に限定した結界だったから、出来た事なんだろう。
それにしても王女は大丈夫なのか?
抵抗するラグォンドルへの魔法陣と同時進行だぞ。
顔色も悪い。
間違いなく魔力枯渇の症状が続いている。
緑光の他、いつから加わったのか青光が王女を覆う。
キャスケットの眷族だけでなく、ピヴィエラの眷族も王女に力を貸しているんだろうか?
「このままピヴィエラが聖獣でいれば、俺達はずっと一緒にいられる!
俺は人間と契約などしない!」
ラグォンドルがそう叫んだ時だ。
ピヴィエラが翼を広げ、王女の腕からビュンと飛んだ。
結界の中に入って、恐らく本来の大きさへと変わる。
ラグォンドルよりひと回り大きかったんだな。
「こんの、愚か者め!」
と思う間もなく、白い尻尾が黒い巨体を鞭のように振り下ろされた。
__ドゴン!
「ふぐっ」
1度振り下ろされた尻尾は、金の煌めきを月光に反射しながら、2度、3度と何度も振り下ろされる。
__ドゴン!
__ドゴン!
__ドゴン!
「……ふおッ、おぐっ、ま、待っぐばっ……キュウ」
ラグォンドルは呻いたり、何か喋ろうとしたりしながら、最後は小さくなって伸びた。
いつぞや国王の背中にへばりついていた、金の光を反射する黒蛇くらいの大きさになったな。
「フンッ」
ピヴィエラも王女の腕にいた時の大きさになって、鼻息荒く夫の上に着地する。
何となく、勝者ピヴィエラと宣言したくなる圧勝具合だ。
「…………壮絶夫婦喧嘩」
「初めて夫婦喧嘩っていうのを見た」
ドン引きしたキャスケットに、王女が反応する。
王女の瞳には薄っすらとだが、好奇心のようなものが感じられる。
「……ベル、普通はこんな激しい夫婦喧嘩はしないからね。
変な知識を持っちゃ駄目だよ」
キャスケットの言う通りだ。
王女はまともに人と関わってきていないのだと思う。
人の世界での常識が歪まないように正しく知識を与えないと、俺の妹のような他人を振り回す破天荒人間に育ちかねない。
王女を見ていると王女が感情を振り切った先の姿に、俺の妹が不思議と重なる。
何故だろう?
妹と王女では感情の起伏具合も、魔力量も、才能も全く別物だというのに。
王女の顔が、幼い頃の妹と似ているからか?
「そろそろ2つ目の結界も張り終わるな。
妾は今からアッシェとの契約を破棄する。
ベルジャンヌは私を通して魔力を夫に流し、ラグォンドルに全属性の加護を与えよ。
妾は夫が聖獣となるに必要な継承を行おう」
王女の顔を見つめていると、夫の上を陣取るピヴィエラが告げた。
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