505.産毛とラブ&ピース
「クソッ」
__バサバサ!
「『払い給え』!」
__ボボボボボ。
「があああ!」
今度は上から新リアちゃんの産毛を貼りつけて作った御札が、数十枚ほど降る。
ジャビの体に巡る悪魔の力に干渉し、燃えながら魔法として発動するのを阻害した。
そう、数十枚の御札が一気に……数十枚?
「そんな?!」
「ぐぅっ、何に驚いて……まだ何か仕掛けるつもりか?!」
待って、うっかり貴重な産毛作品を全て降らせてしまった?!
さすがに今は私自身、魔力と集中力が乱れている。
亜空間収納のコントロールを失敗した!
ちなみに卵生魔獣の生まれたてほやほやの産毛には、特に高い魔力が宿っている事が多い。
産毛は生え変わりの際の一定期間しか入手できないだけに、貴重なのよ!
「……くっ」
「何を企んでいる?!
失敗したと見せかけるにしても、そんな下手くそな演技で騙されるか!」
きーっ!
本気で失敗したのに!
リアちゃんの産毛は、赤ちゃんの髪の毛を記念に切って筆にするような貴重かつ記念になるものだったわ!
玄関に飾るつもりで作ったのに、演技なんかじゃなく、普通に失敗よ!
ジャビの一言が癇に障る。
ニヤリとアンニュイな笑いを浮かべて、八つ当たりを心に誓う。
「ふふふふふふ」
「な、何だ?!」
__パラパラ……。
「『清め給え』、ふふふふふ」
くらえ!
ピケルアーラの脱皮した皮を御札っぽく切って、ラグォンドルの鱗を貼りつけて作った、浄化増し増し、更に増し。
悪魔の浄化に特化した浄化符!
ちなみに今回も2枚しかないわ!
以前よりも勢い良く御札から清水がドバッと流れ、ジャビを包む。
やがて業務用超強力水流の縦型洗濯機に入れた洗濯物のように、ジャビが水竜巻に洗濯される。
「……っ、……!」
ジャビが何か叫んでいるけれど、水の中で喋れない。
水流が激しすぎて唇の動きを追いきれないから、私の方も読唇術が使えない。
悪魔汚れがジャビから滲み出ては、金色と青い光が現れて消す。
ピケルアーラの強い聖属性とラグォンドルの聖獣としての水属性の力が相乗効果を発揮しているわ。
いきなり脱皮したピケルアーラの柔らか皮を見て、急きょ御札作りを思いついて正解ね。
さてさて、もうそろそろ頃合い。
暫くの間、ジャビは身動きが取れない。
ベルジャンヌとラビアンジェの戦い方の違いは、魔法具を用いて戦ったか。
皆魔法を使える世界だもの。
ジャビがこれまで相手をしてきた過去の人達も、魔法具はほとんど活用せずにいたんじゃないかしら。
だからこそ、狡猾なジャビの隙をつけた。
きっと2度目になればこうはいかない。
だからこそ、ジャビという存在を今消すのに力を尽くさないと……。
索敵で結界内全体を探る。
生存者はキャスケットとディアナ。
そしてそこの愚か者以外、もういない。
珍しく黙りを決めこんでいると思えば、いつの間にか亀甲縛りに
この縄には私の魔力が染みこませてある。
恐らくこれから行使する魔法の影響は受けないはずよ。
『皆〜、結界を完全に閉じて、しっかり保持しておいて〜』
聖獣達に命令の意図をもって指示を出す。
この結界は特別製。
悪魔だけでなく、どんな魂も魔法も内に封じる事ができるほど強力で、結界内は聖獣の力で満たされる。
ただし一度発動すれば、聖獣達が持ち場を離れる事はできない。
『ラビ!
何をするつもり?!
僕達に命令してるの?!』
2箇所だけ空けていた結界の穴を塞ぐ聖獣達の中で、焦ったように問うのはキャスケット。
『そうね、これはお願いであり、命令よ』
『嫌だ!』
『お願い、キャスケット。
ミハイル=ロブール。
今世の私のお兄様は、私にとって家族だって思えていたみたい。
もちろん私と仲良くしてくれたラルフ君達も大切よ。
けれど、この世界で初めてできた私の家族であるお兄様を、誰よりも助けたいと思ってしまった。
ベルジャンヌの時にはいなかった、血の繋がった私の家族を助けたいの』
お兄様が死んだと気づいた時、迷う事なくある魔法を使おうと決めた。
『もう……僕を独りにしないで。
だけど……最後の最後まで、生きる事を諦めないで』
『……約束するわ』
諦めない……けれど、難しいお願い。
だって未だに私を助ける方法が思いつかない。
__ドサッ。
戸惑いながらも約束した時、洗濯が終わってジャビが宙から落ちてきた。
※※後書き※※
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5章完結までラスト3話です!
8/9(金)に書籍の三巻が発売です!
書籍の方も、何卒よろしくお願い致します!
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