447.母上よりはマシ〜エメアロルside

「どういうつもりだ?」

「「ヒッ」」


 異母妹のジェシティナジェナと、悲鳴のように息を飲んで仲良く後ずさる。


 ルス兄上が怖い!

ロブール公女、戻ってきて!


 いつの間にか私達兄妹から距離を取り、素早い動きでこの場からいなくなった公女に想いを馳せる。


 ルス兄上の公女への執着心は、思っていた以上に酷い。

ちなみにルス兄上の公女への想いは、僕達3王子の婚約者候補を選出する際に兄上から直接聞かされている。


 ルス兄上は公女を狙って落としにかかると、明確に意志を示した。


 もちろん私はロブール公女に興味はない。


 無才無能で魔力も乏しく、義妹を虐める性悪公女。

そんな風に同母の第2王子シュア兄上が罵るのを、かといって真に受けた事もなかった。

どうしてシュア兄上が、あんなにも公女を悪しざまに罵るのかと、いつも疑問に感じていたくらいだ。


 でも公女と直接話してみて、もしかしたらシュア兄上は婚約者だった公女に、無意識下で惹かれていたんじゃないかって直観した。


 可愛さ余って憎さ百倍、みたいな?


 シュア兄上は側妃である私の実母母上が、誰よりも期待していた。

もちろん王位を継承する方向で。

スペアでしかない次子よりもずっとずっと。


 シュア兄上は口にこそしなかったけれど、異母兄のルス兄上をライバル視していたし、それは母上の影響が大きかったんだと思う。


 母上自身、王妃様には対抗心どころか敵意だって持っているから、シュア兄上が徐々にそうなっていっても不思議はないんじゃない。


 そのせいでシュア兄上は、婚約者にも大きな理想を求めていた。


 1度も自分と会おうとせず、魔力が少なくて教養から逃げると評判だった公女への失望は、誰よりも大きかったんだと思う。


 というか王子の立場上、それはそれで仕方ないんじゃないかと思わなくもないんだけれど。

公女はDクラスだったし、噂も全部嘘や誇張されたものとも言い切れないとは思う。


 実際、今日会ってみて、性悪ではないと確信したものの、王妃云々はともかくとして、王子妃としても……ちょっと色々駄目だと……ごめんね、公女。


 でもすました微笑みは貴族令嬢らしかったし、色っぽいし、可愛いよ。

きっと普通に優しい人だと思う。


 ちょっと王太后様や前王妃様みたいな、いわゆるお祖母様的な視線を向けてくるのが不思議だったし、ヤバいって俗語がピッタリな狂気を感じたけれど……。


 兄上達が2人共惹かれてしまっていても、何かわかってしまった。

いきなり襟の中に手を入れたり、予想外の行動に出るのも……ほら、こっそりジェナが隠し読んでる話題の小説に書いていた……ギャップ萌え、みたいな。


 と、とにかく兄上が婚約者を王位継承もあり得る第2王子として、ロブール家の養女だった第2公女と変更したがったのは、仕方ないとも思う。


 けれどそんなシュア兄上が、突然の病気療養で休学。

それに婚約も解消となってしまった。


 それでも母上は、シュア兄上への期待を止めなかった。

更に拗らせているようにも感じていた。


 そんな時だった。

側妃である母上が持っていた、実子への権限全てを返すよう命令が出た。


 母上はとにかく荒れた。

女官や近衛騎士にもキツく当たるようになったせいで、それまてに築いてきた【優しい側妃】の仮面が剥がれそうになっていた。


 でもそれは一時の事。

どうしてか最近は再び、違うな。

更に母上を盲信するようになった者達が囲んでいる。


 元々は王妃様の権限を譲られていただけだったのに、母上も周りの者達も王妃様が略奪したかのように口にしている。


 私にも同意を求めてくる。

正直、冗談ではない。


 謀反とか言われても仕方ない事態だ。


 正直、母上からはあくまでもシュア兄上のスペア扱いしか受けていない。

私としては第3王子の私の事を、母上より親身に考えてくれる王妃様に決定してもらいたい。

王妃様なりに打算があっても、私は全然構わない。

母上よりはマシだ。


 もちろん兄上達と張り合うつもりなんてないし、王位継承権だってさっさと放棄して臣下に下りたい。


 だから母上に唆されたシュア兄上が、今日、ロブール公女に良からぬ悪巧みをしているのを知って止めに来たんだ!

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