390.夫婦で和楽器ロック
「「「ぅぐっ……マンド、レイク……」」」
こちらに向かって来た教皇、後ろにいた兄と王子は口を揃えて呻くと、その場に倒れこむ。
きっと人生初のロックフェスが、よっぽど刺激的だったのね。
教皇を除いた、青年2人は意識を手放したわ。
「……いつの間に……耳栓……しかし……耳栓で防げるものでは……ガハッ……」
「キャスケットの毛を使った、特別製なのよ」
キャスちゃんの言葉に反応して、一度伏した頭を再び上げた教皇はやっぱり頑丈ね。
でも血を吐くようにして黒い何かを吐き出し、咽て再びうつむいてしまう。
音波に含まれる聖獣ちゃん特有の聖属性の魔力に反応してか、吐き出された黒いソレは霧散した。
「キャッハ〜!
デス!
デス!
デス!」
__ベベンベンベンベンベンベン!
着地した隊長は、長らくお待ちいただいたラビ印の三味線を、亜空間から取り出して、器用にドレッドな枝を使ってかき鳴らし始めたわ。
隊長の音波への耐久性を高めるのに、キャスちゃんにも弦作りを手伝ってもらったし、力作だけあって感無量ね。
絶好調でマンドレイク特有の音波を伴って叫ぶ隊長。
彼は元々魔獣だった。
もちろんマンドレイクよ。
マンドラゴラとも言う、前世でもゲームや小説なんかのファンタジーの世界でよく登場するやつね。
見た目は茶色い二股人参の頭に、枝葉でできたドレッドヘアが付いてる感じ。
私達の出会いは前々世。
ベルジャンヌだった私は、番犬代わりに離宮に建てた小屋の前で、拾ったマンドレイクの種を発芽させて育てていたの。
「「「「「デス!
デス!
デス!」」」」」
__ブフォ〜!
__ドンドンドンドン!
__シャラシャラシャラ!
__ピュイ〜!
__ポロロンポロロン!
ふふふ、奥さん達も絶好調ね。
尺八、太鼓、木製だけれど前世の神社の祭事なんかで見るような鈴、横笛、琴をそれぞれ亜空間から出して、指や蔦を使って思い思いに鳴らし始めた。
この楽器にもバロメッツやラグちゃんの脱皮した皮を使用しているのよ。
前世の日舞や、孫達の中にバンドをやっていた子がいる関係で、和楽器が一通りできるようになっていて良かったわ。
今世になって再会した隊長は、私が地球で過ごす間に、聖獣だったアルラウネと結婚。
聖獣となる素養もしっかり育んでいたわ。
隊長と聖獣だった奥さんが望んでくれたから、今世では聖獣契約を結んだの。
その時いた奥さんは、寿命もあって枯れて__亡くなってというのかしら?
とにかく亡くなっているの。
今の奥さん達は、亡くなった奥さんが残していた種から発芽した、クローンのような存在ね。
ちなみにアルラウネもマンドレイクも、ついでにバロメッツもナス科植物と前世で見たのだけれど、実際どうなのかしら?
まあいいわ、確かめようがないもの。
元々寿命が他の聖獣よりも短い聖獣アルラウネは、そうやって長らく
自家発電型の聖獣継承みたいなものかしら。
この継承には契約者は必要なかったみたいだから、知る人ぞ知る事実ってやつね。
ただ私がラビアンジェとして転生し、契約を結んだ時、聖獣としての力は夫である隊長に譲り渡した。
だから奥さんはもう、聖獣ではない。
この5体の奥さん達に聖属性の力がたっぷり宿っているのも、恐らく先代の種から発芽した今代まででしょうね。
聖獣としての名前は、夫婦たっての希望で隊長がそのままドラゴレナと名乗っている。
「ぐあああ!」
教皇が叫び、のたうち始めた。
仕方ないわ。
隊長の声だけじゃない。
聖獣特有の魔力はもちろん、夫婦一丸となって、聖属性の宿る魔力を楽器を通して音波に載せているもの。
隊長が生み出したバロメッツと、ラグちゃんの脱皮した皮も良い働きをしている。
教皇のように悪魔の力に侵された体には、効果と引き換えにしたかなりの苦痛があるはずよ。
私もキャスちゃんの毛を仕込んだ耳栓が無いと、この大音量だけはツラかった気がしなくもない。
ディアの可愛らしいお耳にも、ちゃんと装着してあるの。
丁度良いくらいの音量に自動調節してくれる魔法具だから、亜空間に収納しておいて必要な時に直接耳に転移させて使っているわ。
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